【蕾1-1】

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【蕾1-1】

昼手前で目覚めると、 シヨカの姿はなかった。 キッチンにいくと テーブルの上に二人で決めた 『連絡ノート』に 書き置きがあった。 『蕾ちゃんへ実家に行ってきます ゴハンは冷蔵庫の中ね ^-^』    ノートに書かれた流麗な字の 横に、ネコ?なのかウサギ?なのか判別がつかない絵が描かれていた。 シヨカは字は綺麗なのだか、 どうも絵心はないようだ。 私が字を書くと丁寧に添削してくれるので、 私は苦笑しつつも、シヨカの画にハナマルをあげた。 大学に通うにあたり、 私は一人暮らしをすることになった。 実家から通うと時間がかかるからである。 もちろん、一人暮らしにあたって部屋は狭くても我慢しようと思った。 親から学費や生活費をだしてもらうのだから、 文句はいえない。 そう思っていたのだが、 折しも書道の大学に受かった、 ――近所で幼なじみのシヨカから提案があがった。 「だったら一緒に暮らさない? そうすれば払う家賃は一緒でも広い所に住めるし、 ツボミちゃんとだったら親も安心するし」 もともと母親同士が仲がよく、家族ぐるみでの付き合いが多かったのだ。 娘が一人で暮らすよりも、 二人暮しの方がなにかと安心だろうと、親達は二つ返事で承諾してくれた。 ただ一つ気になったのは、 シヨカが通う大学へは、 実家からでも十分通える距離なのだ。 わざわざ引っ越さなくてもいいのでは、と訊ねると、 「あーいいのいいの。 一度くらい親元から離れてみる経験しとかなくちゃって、 いったら二つ返事で許してくれたよ。 それに週二・三回は 実家の教室の手伝いしなくちゃいけないしね」 教室とはもちろん、書道教室である。 シヨカは教室を開いている母親の手伝いをしているのだ。 そういえば昨夜、 臨時で大人の部の生徒を教えなきゃいけないんだ、 といっていた気がした。 昨日はあんなにお酒飲んでて、まっすぐな字が書けるのだろうか……? とりあえず私も夕方からバイトがある。 腹ごしらえをしようと、シヨカが作っておいてくれた料理を冷蔵庫からだした。
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