【蕾1-2】

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シヨカもそうだが、 私の名前もなんだかんだで 小さい頃はよくからかわれた。 漢字の読み方を覚えてくると、南野(ミナミノ)をナンノと読めることを知った男子に、 「何のツボミだよ」 と多分悪気はなかったのだろうが、その当時の私はひどく傷ついた。 落ち込んでいた時に シヨカに励まされたことは 今でも忘れない。 「なにいってるの。 ツボミちゃんの名前は可能性って意味じゃん。 どんな花が咲くか、期待と希望に溢れる名前じゃない」 シヨカの言葉が力強く響いた。 どんな時でも前向きに、 間違ったことは大嫌いな、 シヨカらしい解釈に私は救われたのだ。 自己紹介の度に名前でからかわれることはあったが、昔のように傷つくことはなくなった。 シヨカの言葉が私の宝物になったからだ。 大学に入っても案の定、 名前の話はのぼった。 そんな折、シノくんだけは からかわなかった。 「じゃあ期待って意味かな? 蕾が綻ぶ姿はどんな花が咲くか毎日が楽しみになる、 ――そんな希望に満ち溢れる気持ちで、ご両親は付けられたのかな」 ――なんというか、シヨカと同じ解釈をする彼に私は素直に嬉しかった。 ――こんな単純な理由で私は彼に強く惹かれたのだ。 「昨日はお疲れ様です。ミナミ先輩あのあとちゃんと帰れた?」 「あ、うん(ちょっと嘘)。シノくんはあのあとカラオケ行ったの?」 「まぁね、付き合いもあるから」 「そっか。シノくんだったら歌上手そうだよね」 「上手いよ」 しれっとシノくんは、ごく自然に応えた。 それがまったく、 嫌みに聞こえないところが すごい。 「クロ先輩程じゃないけど、今度俺の美声聴いて下さいよ」 とおどけた口調が なんとも可笑しかった。  
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