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「美味いなぁ」
「むぅ……」
「やっぱり紅茶は」
「こうでなきゃね」
褒められるのは素直に嬉しいのだが、シロ先輩の立場の事を考えると内心複雑だ。
なにげに紅茶や中国茶、お茶系統は好きなので入れるのは苦痛ではないし、料理はシヨカが担当だが、お茶は私の方がよく入れることが多い。
「あの、……スミマセン」
「なんで謝るんだ?」
「――――」
「そうよ」
「素直に美味しいわよ」
「ミナミちゃん」
いつの間にか定着されてしまった私の呼び名で、シロ先輩は棚にいくつも置いてある紅茶缶の中から一つを取り出した。
「これ入れてよ」
中身を開けると、粒になった茶葉が入っていた。
「それ、いつも苦いのよ」
「シロ、入れ方下手だから」
「ああこれはCTCですね。細かい茶葉だから抽出時間が短いんですよ」
「スゲーなチューシュツなんて言葉聞いたことねぇよ。あとなに? イーティーシー?」
「ETCは高速だろ」
「シロ拗ねないの」
「大人げないわよ」
明らかにシロ先輩の機嫌を損ねてしまっている雰囲気に、私は堪えられなかった。
シロ先輩の綺麗な容貌は鬼神の如く恐ろしい。
「スミマセン(この場に堪えられなくて)あの、失礼します」
「ちょっと待って、紅茶は入れていけ」
いうや否や腕を掴まれ奥の給湯室に連れていかれた。
いま気がついたけど、シロ先輩って小柄だ! 私より低いっ!
「別にミナミちゃんに怒ってる訳じゃないよ。ただあいつらの態度がムカつくだけ」
新しく紅茶を入れている間、シロ先輩は色々とお茶について質問したりと、熱心に私の話を聞いてくれた。
クロ先輩たちには心が狭いなんていわれてたが、なんだ、たんに負けず嫌いなだけじゃないか。
「つーわけで、あいつらには先に塩入れてやる」
…………。
魔女が鍋でグツグツと怪しげな薬を作ってるみたいに、ティーカップに注いだ紅茶に三人分だけ塩を大量に入れていた。
あぁ、こういう所が心狭いんだ。
――その後、シロ先輩の悪巧みにまんまと引っ掛かったのは、クロ先輩だけだった。
アカ・アオ先輩は、第六感というか超直感が働くらしく、生まれてきてから今まで危険な目にあったことがないという、大変運に恵まれた人達なのだそうだ。
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「うわーっ、紅茶美味いっすね」
新入生のアダシノくんが、戸惑い気味に飲んだ紅茶の感想をきいて私はホッとした。
「いい方は悪いが、ウチのお茶くみ担当だかんなー」
「悔しいけどミナミちゃんの方が美味いんだよね」
「シロが入れたやつは怖くて飲めないわよ」
「何が入ってるか分からないものね」
賑やかに談笑が続く。
ふと一年前の出来事を思い出した。
結果的に「二足の草鞋会」には誘われるままに入ってしまったが、今思えばいい出会いだったのだろう。
アカ・アオ先輩にいわせれば私は十年に一度の逸材だそうだが、当の本人である私にはさっぱり解らない。
その点、今年入ってきたアダシノくんにはなんだか、不思議と親近感を覚えるのはなんでだろう――?
まぁ、これもなにかの縁というやつだろうか。
それにしても、アダシノくん、身長高いなぁ。
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