■ベンチタイム ただいま発酵中

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 前回の記述で間違いがあった。  正確には『明日喜屋』は全国チェーンを展開する企業グループである。 ただ違うのは、水野時雨が働かされている――もとい働いている、『明日喜屋』は初代が都心の一等地に建てた本店であり、0号店でもある。  つまるところ、明日喜グループに所属せず、独自の商売戦略で開業している特別店なのだ。  もともと子供の多かった祖父は、向上心・闘争心を培わせるために、子供同士であるゲームをさせた。  それはもちろん店を継がせるための適正、判断力、創造性を試すものであった。  晴海・時雨の母親は末子(まっし)であり、グループや店を継ぐ気などは全くなかったのだが、年の離れた兄姉たちから無理やり押し付けられた形で特別店を引き継いだ。  もともとグループに所属していたほうが何かと安心であり、個人経営で成り立てなくてはいけない本店を継ぐのを誰もが嫌がったのが理由だ。 その上、都心の一等地という好立地条件に店をかまえていると、少しの経営不振でも他の企業からの乗っ取りが脅威でもあるのだ。  だが、ここで誤算が生じる。  やる気のなかった母親ではあったが、もともと天性の商才を父親から受け継いでいたのか、店は一度も赤字を出すことなく、現在も営業中なのだ。
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