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【化野1-1】
「それにしてもミナミ、よく名前読めるなぁ」
「バイト先の古本屋で、同じ名字の作家さんの本を、この前読んだんですよ」
「へぇー、どういう話?」
「化野椛(モミジ)さんて方で、幻想作家さんなんです」
「けっこう昔の作家よね」
「そうなんですよ、アカ先輩。あ、アオ先輩も読んだことあります?」
「御祖父様の屋敷にあったから昔はよく読んだわね」
俺はこの会話に入るかどうするか悩んだ……。
なぜかというと……。
「ところで、化野忍」
突然、アカ・アオ先輩がずいっと俺の顔近くにやって、
「身内にいるわね」
「?」
なにがっ、ですか?
「カエデ? モミジ?」
「あぁ、一緒なのね」
え? え?
俺がものすごい不可解な顔になっているのは、自分でもわかった。
「化野くん。アカ先輩もアオ先輩も霊能者なのよ」
「ちがうわよツボミ」
「スピリチュアルよ」
「カタカナになっただけじゃねーか」
「単にカンがいいだけだろ」
カタカタと、さっきからシロ先輩はノートパソコンの画面を覗き込んで、なにやら神妙な顔つきでいる。
「ふむ。化野椛(アダシノモミジ)、本名は化野楓(アダシノカエデ)。女流作家で幻想的かつ耽美な文章が人気を博していたのか」
で、とシロ先輩は綺麗な容貌でありながらも悪魔のような微笑みで口元がつりあがる。
「化野忍、お前の父方の祖母にあたるんだよな?」
「あ、……はい」
別に隠してた訳でもないので、すんなりと答えると、
「うそ!」
思わぬところから反論される。
ミナミさんがキラキラと眼を輝かせて俺を見つめている。
「ホントに? じゃあじゃあもしかして、原稿とかってみたことあるの?」
「あ、いえ、祖母は俺が小さいときに亡くなったんで、そういった類いの品は見たことないんすけど……」
「じゃあ出版された本は家にあったりする?」
「たぶん実家に帰ればあると思うんすけど」
「実家? てことは化野くん一人暮らしなの?」
「姉と一緒です」
「二人暮しなんだ。私もね、幼なじみと二人暮しなんだ」
喜々としてルームメイトの話をするミナミさんに対して、俺は違うイミで嬉しかった。
まさかこんな身近に、身内の本を読んでくれている人にあえるなんて思わなかったからだ。
小さい時に鬼籍に入った祖母の話は、耳にタコが出来るぐらい父親から聞かされていた。
そのせいで無理矢理、祖母の作品を読まされるハメになったのだが、いかんせん、漢字が多いは難解な表現が多いは、やたらとエロいはで、初めの数ページで挫折したままなのだ。
読書は結構好きなんだが……。
「へー姉ちゃんていくつ?」
突然、クロ先輩が訊いてきたので、6つ上、と答えると、
「結構、離れてるんだな。なんかいいなぁ年上の女って」
「この馬鹿クロ」
何故かシロ先輩がイラついた声を発して、クロ先輩を睨みつけている。
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