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もともと引っ越す金が貯まるまでの居候の身なので、いいもなにもないのだが。
「それにしても、ツボミが化野椛にそんなにも興味をもつなんて思わなかったわね」
「バイト先で、ヒマな時間に読んだらハマッてしまったんですよ」
「それでなにを読んだの?『格子の華』シリーズは読破したのかしら?」
「もちろんです! ただ『四季姫』シリーズの最終巻『六花の章』だけが未読で……だからね、化野くん」
なるほど。ここで俺にお鉢が回ってくるのだな。
「もしあったらでいいんだけど貸してくれないかな? 店主にもお願いしたんだけど、入手困難で」
申し訳なさそうにミナミさんは俺に視線を傾ける。
汚れない双眸が、じっ、と向けられ、目線が合った。
なんというか、眼が合うのを怖がらない人なんだな、ミナミさんって。
「わかりました。とりあえず実家には連絡してみます。あ、でもあんまり期待しないで下さい。うち結構、管理が甘いというかいい加減なもんで」
「わぁ、でもありがとう」
ミナミさんは嬉しそうに笑った。あぁ、なんかスゲー可愛いな、この人。
「ツボミ」
今度はアカ先輩とアオ先輩がイラついた声。
「なんで私達に頼まないの?」
見事なユニゾンで紅蒼の双子の西洋人形は、ミナミさんに詰め寄る。
「え、だって一番確実な入手手段じゃないですか。『六花の章』は印刷時に出版社が火事になってしまって、ほとんど幻に近いんですよ」
「それでも先に、私達に訊いて欲しかったわね」
「まったく」
ミナミさんは「?」マークを顔中に浮かべながらも、
「アカ先輩、アオ先輩、ごめんなさい」
素直に謝った。
別に悪いことをしたわけでもないのに、なんだか理不尽なような……。
「で、化野」
クロ先輩がお茶菓子のガレットを頬張りながら、
「お前、得意なものってあるのか?」
一口で平らげてしまうので、みるみるうちに菓子皿の中はなくなっていく。
「えっ、得意なものですか?」
「やっぱり椛さんの血を継いで文才があるんじゃない?」
さっきから、クロ先輩とミナミさんとばかり話している気がする。
シロ先輩はずっとノートパソコンにかかりっきりだし、アカ・アオ先輩は興味がないのか雑誌を読んだり音楽を聴いている。
必然的にクロ先輩とミナミさんが俺の側で腰を落ち着けているわけで、話をしてみて分かったが、クロ先輩って見た目は熊みたいな野性味を帯びているのだが、なんだかんだで面倒見がいい。
ただ頂けないのがサークル名に因んでるのか、カラフルなワラジは微妙である。
――――ん?
「ミナミ、目つき悪いな」
変な視線に気がつくと、ミナミさんが俺を睨み付けている。
さっきまで友好的だったはずなのに、俺なんかしたか?
「あ、ごめんね。化野くんの眼鏡、フレームが下だけにあるからなんかかっこいいなと思って」
「これ逆ナイロームっていうんですよ」
「逆な……なんだか難しいけどそのデザインいいね」
「ツボミ、いいかげん眼鏡かコンタクトにしなさい」
「目つき悪いと可愛くないわよ」
アカ・アオ先輩は視線をあげることなくそう告げた。
「最近ホントによく見えなくて」
そういいながらミナミさんは眉間にシワをよせている。
さっき目線が合ったと思ったのはどうやら勘違いだったらしい。たぶん、あんまり見えてなかったんだと思う。
なんか浮かれた自分が恥ずかしいな……。
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