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【化野1-2】
「あ~もう菓子ねぇな」
ひとりでひょいひょい食べつくしてしまったクロ先輩は、まだ物足りないのか、部屋をウロウロとさ迷いお茶請けを探し始める。
その様は冬眠から目覚めた熊のように似ている。
「クロ先輩、お菓子まだありますから」
慌ててミナミさんが席を立ち、隣の部屋に(どうやら給湯室らしい)駆け寄ろうとすると、
「ツボミ、お菓子買ってきて」
「アカ先輩、まだ買い置きのがありますよ?」
「厶ーンバックスのマカロンが食べたいのよ」
と、アオ先輩。
双子だからだろうか、以心伝心だ。
そういいながらも、アカ先輩はそばにあった財布から紙幣を何枚か取出し、ミナミさんに渡すと、
「急がなくていいわよ」
「なんなら厶ンバでお茶してきてもいいし」
「急いで買ってきますよ?」
「ミナミ、俺のチャリ使ってけ」
クロ先輩が尻ポケットから自転車の鍵を取り出し、ミナミさんに渡す。
鍵には猫と鼠のキーホルダーが付いている。よくよくみると猫は瞳が大きくデフォルメされ、キュート感たっぷりのポップな作りがされている。
その点、鼠のほうは凶暴に眼がつりあがり被毛の一本一本が細かく作り込まれていて、今にも動き出してしまいそうなほどリアルだ。
『窮鼠猫を噛む』そんな諺が思わず浮かんだ。
「他に買ってくるものありますか?」
「じゃあ俺、スコーン買ってきて」
そういいながらもシロ先輩のそばにある煎餅をボリボリと口にしている。
「シロ先輩は?」
「今の所はない」
ノートパソコンの画面を見続けながら言う。覗き込んだクロ先輩が、ぶはっと吹き出した。
面白い画像でも見てるのかなと思ったが、馴れ馴れしく聞くのは躊躇った。
「じゃあ、化野くんは?」
「あの俺も一緒に行っていいですか? チャリなんで」
ミナミさんと二人っきりになったときに、いろいろと先輩達の人となりを聞きたかったのだが、
「あなたはいいのよ」
「ツボミ、さっさと行ってきなさい」
高圧的な物言いで、なんだか早くミナミさんを追い出したい雰囲気だ。
「……じゃあ化野くん。適当に買ってくるね」
そうしてミナミさんは部屋をでていった。
この時、俺は無理矢理にでも一緒に行けば良かったと、激しく後悔することになる……。
「――行ったわね」
「化野、そこに座りなさい」
指さされた所は着替えの為の場所なのか、二畳ほどの畳みの上である。
有無をいわせないアカ・アオ先輩の視線に俺は大人しく、正座した。
これがまだ同性のクロ先輩やシロ先輩にいわれたのなら、なんとなく解る。
「お前ら、ほどほどにしとけよ」
クロ先輩は呆れた声で言い放つが、助けてくれる気はないらしい。
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