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【閑話 一足】
「結局、私以外誰も入ってきませんでしたね」
それは――、南野蕾の何気ない一言だった。
いつものように、ニソワラ会のメンバーはダラダラと研究棟の一室を間借りして、(正確には白百合幸四郎が脅迫まがいなことをして、好立地条件の場所を奪い取ったのだが)お茶会を繰り広げていた。
今日の紅茶は、アールグレイ。
お茶菓子は、ダッグワースにチョコレート、フィナンシェ、バタークッキー、スコーン等等と相変わらずの品揃えである。
「なんだミナミ、誰か誘いたかったのか?」
最低限の身だしなみしかせず、一体いつ剃ったのだろうと思う不精ヒゲがトレードマークの黒杉瞳が、ダッグワースを一口で頬張りながら訊ねる。
「一応、友達には声をかけたんですがみんな忙しいみたいで、相手にしてくれなかったんです」
身長175センチを気にするあまり、やや猫背気味の南野蕾は悩ましげな顔色で答えた。
「まークセがあるかんね。このメンバーじゃ」
チラリ、と部屋の隅に設置されている二畳ほどの座敷に座り込み、なにやらタロットカードと睨みっこしている、紅鬼蒼鬼を尻目に、白百合幸四郎はノートパソコンの画面を眺めていた。
静かにしていれば、浮世絵から抜け出てきた佳人のように美しい面立ちの彼だが、発せられる言動は、しばしばトゲがありドクを含んでいる。
「シロ、それはまさか私達のことを言ってるんじゃないでしょうね?」
まるで鏡合わせのように、紅と蒼のゴシック調の衣裳に身を纏い、白百合とは部類の違う、目鼻立ちのくっきりとした、まるで西洋人形を思わせる双子は同時に口を開いた。
先程から擬宝珠紅珠と蒼珠は、何度占っても同じ結果に頭を悩ませていた。
「納得が行かないわね」
「本当に」
これ以上占っても仕方ないと判断したのか、タロットカードを集め作業を終わりにした。
「どーせ、悪巧みしか考えてねーんだろ」
いつものことなので、黒杉は気に止める事なく、置いてあったスコーンにクロッテッドクリームをたっぷりとつけて、これまた一口で口にほうり込む。
幸せそうに顔を綻ばせる様は、まるでハチミツを食べる熊のように似ている。
「聞き捨てならないわねクロ」
「これからのニソワラ会に足りないものを、考えてたんじゃない」
「それでなにか分かりましたか?」
南野は二杯目の紅茶を擬宝珠姉妹に差し出しながら、興味津々に訊いた。
性格も口調もキツい双子だが、占いに関しての信憑性は眼を見張るものがある。
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