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じっ、と四つの瞳に気がついて南野が首を傾げると、
「やっぱり半々ね……」
「どうにもならない運命なのかしら」
「?」
この件に関しては取りあえず検討中、と双子だけの合図で視線を合わせて、重い腰をあげて黒杉の前にあるお茶菓子に手を伸ばそうとすると、
「クロ! なんでダッグワース全部食べちゃうの!」
「スコーンだって、クロッテッドクリームがもうないじゃない!」
「あー、えーとこれには訳があってだな、うん。なんていうの、……妖精の仕業?」
怒り狂う紅鬼蒼鬼に、憐れな熊は太刀打ちすることなど出来ず、黒杉秘蔵の引き出しに大事にしまっておいたマロングラッセを跡形もなく食べ尽くされてしまった。
「あぁぁぁ~」
「まったく」
「意外に美味しかったじゃない。そこのメーカー」
がっくりとうなだれる黒杉を冷ややかに眺めながら、白百合は自分専用のかき餅を食べた。
基本的に甘いものを好んで食べないので、自分の分も黒杉に与えているにも関わらず、
「さすがに食べ過ぎだろ」
「だって、好きなんだもん」
甘いのが。
と、ウルウルと瞳を潤ませるがいかんせん熊だ。
可愛いなんて到底思えない。
だが――。
「なんか可愛いですよねー、クロ先輩」
南野は無邪気に述べた。
本人にとっては、甘いものが好きな男性→可愛い。という図式だったのだが、
「どこがよ?」
「ツボミ、視力がさらに悪化したわね」
と、双子に指摘された。
「えー? 可愛いですよ。クロ先輩、乙女趣味だし」
この前だって、と部屋のラックに幾つも置かれたヌイグルミを一つ持って来て、
「ほら。こんなに可愛い、垂れ耳ウサギとか」
柔らかなジャージ生地で作られたウサギ。おおぶりなサイズであり、ぎゅっと抱きしめてほお擦りをすると、なんとも堪らない癒し効果抜群の逸品である。
ちなみに黒杉がデザインし、縫製は蒼珠がしたものだ。
「ミナミ~お前だけだよ。俺のこと解ってくれるの」
ウサギごと黒杉に抱きしめられて、南野は固まった。
別に下心やいやらしさを含んではいないハグであり、普段から擬宝珠姉妹にベタベタと触られたりして、スキンシップには慣れている。
それに黒杉は普段から誰彼構わず触ることが多い。
「……先輩」
「あ、ワリぃ」
ぱっと離れた自分よりも背の低い黒杉を見下ろし、
「私、今度ここに入ってくる人は背の高い人がいいです」
何故かきっぱりと南野に言われ、その願いが叶うのはそう遠い未来ではない。
それは、化野忍が『二足の草鞋会』に足を踏み入れる、
――――ひと月前の話。
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