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「クロ、だいたいなんでニシノなんだ?」
「あだ『シノ』『シノ』ぶ、でシノが二つあるから」
「……じゃあカジワラも必要じゃないか」
真剣な顔でシロ先輩がいう。
俺、シロ先輩ってもっと真面目な人だと思ってたのに。
つかつかとシロ先輩が進んでいく先には、部屋の隅にあるラックで、中にはいくつもの動物のヌイグルミが沢山あった。
その中からサルのヌイグルミを持って来ると、
「ほら相棒」
「よかったなー、ニシノ」
「漫才の一つや二つやってみろよ」
シロ先輩がムチャ振りをする。
あぁー、もうどっかの芸人さんだと思ってるし。
「化野くんはニシノ(西野)くんになったんですか?」
紅茶のおかわりを、とティーポットを片手にやってきたミナミさんは嬉しそうに俺の方に視線を向けて眉間に皺をよせた。
うん。たぶん、よく見えてないんすね。
「じゃあ、私と方角コンビ結成だね」
「……んー?」
首を捻るクロ先輩。
「あーなるほどね」
シロ先輩は納得した様子。
「だって先輩たちみんな色の名前じゃないですか? ……シヨカもそうだし……。私だけ仲間ハズレみたいで寂しかったんですよ」
一緒一緒とあまりにもミナミさんが喜ぶものだから、
「俺、ニシノでいいです」
思わずいってしまったのだが、
「却下よ!」
「却下だわ!」
アカ・アオ先輩がモーレツに反対した。
……なんとなく分かってはいたけど。
「だいたいそれじゃ、化野が可哀相じゃない」
「ニシノじゃ姓名判断的に運勢最悪だし」
アカ・アオ先輩はイチミクロンも俺の事を考えていってるわけではない。
ミナミさんと俺がどんな形であれ、仲良くなるのが気に入らないのだ。
「えーダメですか?」
「ダメよ! ダメダメ!」
「化野を不幸にしたいの?」
「……アカ先輩もアオ先輩もそこまでいうなら、ニシノくんはやめます」
チーム方角コンビは結成、ものの数分であっさりと解散してしまった。
ミナミさんの見えないところで、ニヤリと微笑んだ鬼女姉妹の恐ろしいことオソロシイコト。
「じゃあシノくんですかね?」
「なんかもーどーでもいいや」
「別にいいんじゃない」
「そうねぇ」
「シ(死)ノね」
いま、漢字変換がおかしかったけどもういいや……。
「えーと、アダシノことシノでよろしくお願いします」
****
「というわけで、シノ、親睦を深めるために男同士で飲みに行くか?」
「はぁ、別にいいっすけど」
「でも俺、酒飲めねーんだけどな」
かはははとクロ先輩は豪快に笑う。
うーん、酒飲めないのに飲みに誘うのもどうなんだ?
「クロは居酒屋のスイーツが好きなんだよ」
「ちなみにこいつはザルだけどなー」
クロ先輩がシロ先輩を指差した。
見た目、華奢で女のように綺麗な容貌の人だが、日本酒とか、とにかくアルコール類が大好きなのだそうだ。
「クロ、別に飲みに行ってもいいけど、今日俺、車なんだけど」
「あーそうだった」
じゃあ、と、
「俺オススメの甘味処行く?」
嬉しそうな顔でクロ先輩はいう。多分、自分が行きたいんだろうなぁー。
さっきから人よりいっぱい甘いの食べてるのに、まだ食べるのかよ。この人。
「アカ、俺の財布とって」
アカ先輩はそばにあった――さっきミナミさんを追い出すために使った――黒い財布をよこした。
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