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【化野1ー1】
クロ先輩オススメの甘味処は、シロ先輩の車で行くことになった(遠いのか)。
連れ立って歩いてみると、この二人、やたらと学校内で有名だということがわかる。
駐車場までの短い道中でも、二人に声をかける人は後を絶たない。
クロ先輩は意外にも人望が厚く、甘党なのをわかっているのか、挨拶を交わす女子の殆どはチョコやアメ、クッキーの類いを差し入れていた。
「はい、クロ様。新発売のお菓子」
「お! サンキュー!」
「クロ先輩、この前教えていただいたケーキ屋さん、美味しかったですー」
「だろー?」
などなど……。
クロ先輩は男前というには覇気がない。どちらかというと癒し系?
観賞用にしてはクロ先輩は隣に並ぶシロ先輩に見劣りしてしまう(クロ先輩スミマセン……)。
だから初め、女子たちがなんであんなにも夢中になるのか不思議だったのだが、すぐにそれはわかった。
よく喋るクロ先輩の声にみんな聞き惚れているのだ。
不精ヒゲで服装も着れればいいみたいなセンスなのだが、深く伸びるバリトンの声は耳に心地良く余韻が残った。
気持ち悪いぐらい甘いもの食べてる割には、太ってはいない。
だからといって細いわけではない。ぽっちゃりの手前ぐらい?
機敏なわけでもなく、のしのしとカラフルなわらじで歩く様は冬眠から覚めて食糧を探し回る熊のようである。
一方、シロ先輩はもって生まれた美貌で、女子たちの黄色い悲鳴やアイドル並の声援を軽くあしらいながらスタスタと通り過ぎる。
時々、男子の野太い声も聞こえたりもするが……。
俗に美人を、――立てば芍薬、座れば牡丹――なんて花に例えたりするけど、シロ先輩はホント、――歩く姿は百合の花――だ。
野外で女形なんてしちゃうような人だから、背筋もピンとのびていて、少し長めの髪を一つに結んでいると白いうなじがあらわになり、思わず見惚れてしまうほどだ。
「あの、待ってなくていいんスすか?」
後ろできゃあきゃあと甘味話に花を咲かしているクロ先輩を尻目に、シロ先輩は慣れているのか、
「ほっとけばすぐ来る」
と、一蹴して歩き出した。
「あいかわらずだね、白百合」
前方に、人影が出来た。
視線を向けると人懐っこい顔立ちの、クロ先輩に比べたら数十倍身なりのきちっと整った(クロ先輩が身なりに無頓着過ぎるのだが)好青年だった。
でもどっかで見た事あるような?
「雅(ミヤビ)」
「先日はどうも。おかげで助かったよ。やっぱりお宅に頼んで正解だったな。新入生も骨のある奴らばかりだし」
「支払いまだだったな」
「……まぁ、それは後々。というか写真部の方からも小金貰ってるんだろ? お前の生写真、やたらと好評だって聞いたけど」
「被写体がいいからに決まってんだろ」
当然だ、と言わんばかりにシロ先輩は鼻で笑った。
自分に自信あるのってスゲーなー。
俺だって一度くらいはモテて仕方ない、なんて言ってみたいものである。
(まだ言ったことないけど……)
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