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二人ののらりくらりとした会話を交わし合い、ところで、と俺の方に視線を向けると、
「あれ後ろのコって? 黒杉から乗り換えたの?」
「アホか。ウチの新入り」
「へぇー背高いんだね。南野女史の好みかな?」
「アカ・アオが見分(ケンブン)したからな。ま、根性はあるんだろ」
「ははは。あの鬼姫たちが認めたんなら大丈夫だね」
あ、やっぱりあの双子、鬼でいいんだ。
軽やかに笑う姿が様になる彼はすっと眼を細めて、
「ま、ニソワラ会に入って損はないよ。だからって得にもならないけどね。あの双子にネチネチとイジメられたでしょ?」
「はぁ、まぁ……」
どうもあの双子鬼のいびりは有名なのか?
「ま、見込があるってことだからそう気に病むなよ。えっと、俺は、海棠 雅(カイドウミヤビ)。三年で専攻は日本画」
「化野 忍(アダシノシノブ)です。工芸を専攻してます」
「アダシノ? 確か京都に火葬場があった場所だね。……じゃあシノシノなんて命名?」
「いやクロが縮めてシノになった」
「へぇー、黒杉ネーミングセンスだっさいからね。じゃあ俺の篠笛とも縁があるかな」
そういって慣れた手つきで横笛を吹く仕草をした。
その様が喉元まで出かかっていた記憶を蘇らせてくれた。
入学式のときの勧誘会に、大掛かりな舞台に仰々しく座っていた人物だ。
正直、和楽器の調べなんてさっぱりだったが、良い音楽だというのはわかった。
「関係ねーだろ。この音楽バカ。だいたい、あんな地味で目立たないサークル盛り立ててやったのウチの会なんだからな」
「あーはいはい。ニソワラ会には感謝してますー。どーせウチの『雅楽会』は地味だし格式が高そう、なんて言われて全然人なんかよって来ないよ」
二人の会話を聞いていると、地味で目立たず、なかなか人の入ってこない『雅楽会』に客寄せパンダよろしくの『ニソワラ会』が協賛した模様である。
ま、あんだけ目立つクロ先輩やシロ先輩、おまけにアカ・アオ先輩の言葉に言い表せない存在感。
美大だから絵が上手い人なんてゴロゴロといる中でも一際、人を魅了させるミナミさんの絵。
ほとんど勢いで入ってしまった『ニソワラ会』だが、なんとなく実態がわかってきた。
ただ、ニソワラ会は有志ではなくもちろんビジネスで働くらしい。
ま、その報酬金はクロ先輩のお茶菓子で消えているような気がするのだが。
「ま、擬宝珠姉妹のおかげで遊び半分で入会してきた奴がいなかったのは有り難いけど」
アカ・アオ先輩は持って生まれた第六感(ほとんど魔力か妖力だと思うが)で受付時に、やる気があるかないかの選別をしてたらしい。
「そうそう、それで依頼料とは別に、黒杉から頼まれたのがあってさ」
「は? クロから?」
どうせろくでもないことだろ、とシロ先輩の綺麗な柳眉は僅かにはねあがった。
「明日あたりもって来れそうだからって、つたえ……てっ」
海棠先輩の背後から物凄い勢いでクロ先輩が突進してきて、否応なしにズルズルと引っ張っていった。
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