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「ばかっ! シロにばれたら何て言われるかわかんねーだろ」
「なに? またコソコソと内緒でやってたわけね」
小声だけれどよく聞き取れる響きで、海棠先輩も慣れたものなのかやれやれといった口調で、
「わかった。明日ちゃんと持って行くから」
「だーかーら、そんな大きな声でいうのヤメテー」
「――クロさん」
ゴゴゴゴゴと効果音が背景に浮かび上がってるんじゃないかと思うほど、シロ先輩は静かに怒っていた。
「詳しいことは後々、ちゃんときかせてもらいますから」
にっこりと微笑んではいたけど、眼だけは笑ってはいなかった。もちろん……。
*****
シロ先輩の車は、デザインが随分と可愛い車種で、彼が選ぶには少し不似合いな気がした。
どちらかというと、スポーツカーとか高級車のイメージのシロ先輩だから、眼の前にある可愛い造りの車はクロ先輩が好きそうなデザインなのだ。
それからの道中、車内で、お前はやたらと浪費家だの、使いこなせないものをもらってくるなだの、延々延々とシロ先輩の小言が始まった。
日常茶飯事なのか、クロ先輩も慣れたもので、あースミマセンスミマセンね、と軽口をたたいている。
後部座席から覗くその風景は、
なんだか長年連れ添った夫婦の会話にしかきこえなかった。
*****
「茶房 藤利」
抹茶甘味がイチ押しの店らしいが、店内に入った瞬間、俺は尻込みしてしまう。
狭いスペースで照明を少し落とした雰囲気は和みの空間になっており、女の子同士、カップル、中年の女性――、九割方女性陣で占める店内に男三人での入店は異様である。
「どーもー」
「いらっしゃいませ。いつもご利用ありがとうございます」
常連なのか、若い女性店員の態度が、やたらとフレンドリーである。
「あれ、今日は新しい方がいらっしゃるんですね」
「そーなの。うちの新人」
肩越しに指差されたクロ先輩の指先に視線を送った女性店員と眼が合って、俺は軽く会釈した。
「そうですか。ではいつものお席でよろしいですか?」
そういって奥の席に通される。
奥、なので店内を花道さながら横切る形になり、先程から店内にいる女性達が(さりげなくだが)まるで値踏みをしてるかのような視線が送られてくるのを感じる。
――やったー今日超ラッキー。
――毎日通いつめただけあったわ。
――あぁ! 噂の美形にお目にかかれるなんて。
などなど……。
囁きだけれど確実に耳に入ってくる羨望の声から察するに、店内の女性達は常連のようにやってくるクロ・シロ先輩(正確にはシロ先輩か)が目当てのようだ。
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