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【化野1-2】
店員に案内され意気揚々と先頭に立つクロ先輩、続いて小柄なシロ先輩、最後に俺という順番で歩いていると、店の中程まできたとき、おもむろにシロ先輩が振り返り、
「そういえばお前、頭に桜の花びらついてるぞ」
え? と頭を振り払おうと思ったのだが、
「いい、いい。俺がとってやるから、少し屈め」
言われるままにシロ先輩に頭を傾けた。
僅かに髪に触れた感触がして、
「うん、とれた」
「ありがとうございます」
そこでハナシが終わるのかと思ったのだが、じっとシロ先輩に見つめられ、
「?」
むにっ
と、頬をつままれた。
「…………!」
「可愛いなぁ、お前」
こっちがドギマギとしてしまうほどの極上の笑みで、シロ先輩は顔を赤らめる。
えええっ???
なにがなんだか理解できない状態でボー然としていると、シロ先輩に腕を掴まれ、クロ先輩が待っている奥の座席につれていかれた。
その途端、背後から見えない悲鳴がこだまする。
――ええっ? この二人そういう関係だったの?
――でもヒゲの人といつも来てたのに。
――新しいカレに乗り換えるつもりで今日は別れ話かしら?
――じゃあ今日は修羅場?
――あの背の高いコ、年下よね。敬語使ってたし。
――ワイルドな男もいいけど、年下もいいわね。しかも眼鏡だし。
などなどなどなど……。
渋色一色だった店内が、一気に薔薇色になる瞬間を、俺は(認めたくないのだが)はっきりと目の当たりにしたのだった――。
「なにイチャついてんだよ」
クロ先輩がメニュー越しに不機嫌な声をだした。
奥の座席にだけ背の高い観葉植物が設置されているので、少しだけ周りと遮断される。
「そういう風にみえた?」
当たり前のようにクロ先輩の隣にシロ先輩が座ったので、俺は一人で向かい側に座る。
「……別に。でもなんかムカつく」
「まぁまぁ、たまにはフジョシたちにサービスしてやんないとな」
どうやら俺はいいダシにされたらしい。
「あ、あの。シロ先輩……」
「気にするな。ただの余興だ」
「タチの悪いことするのやめてくださいよ。ちょっとドキッとしちゃったじゃないですかっ!」
「――惚れんなよ」
とはクロ先輩の言(ゲン)。
うーん、冗談にしては眼がマジですよ。クロ先輩……。
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