■ベンチタイム ただいま発酵中

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 時雨には少しだけ人に自慢できる才能がある。  絶対音感があるように、時雨には一度食べたものの味を忘れることがない。  正確には匂いを嗅いだだけでも、その料理の材料を言い当てることが出来るのだ。  これは飲食業をしている者にとってはかなり優位な特技だろう。  散々母親に馬車馬のように働されながらも、とりあえず『明日喜屋』にも定休日が存在する。  ビジネス街に面した場所にある裏手の店は、日曜日には買いにくる客はあまり少ないので店の定休日になっている。  住まいも店の二階にあるので時雨はそのままラフな格好のまま、二つほど道を過ぎた先は、休日は買い物客で賑わう大通りに足を向けていた。  大通りに面したところに、正式な『明日喜屋』の本店が存在する。 時雨は足を踏み入れたことはなかったが、休日ともあって随分と客足は多く、繁盛しているようだ。  時雨はそんな店の雰囲気を尻目に、向かう先はビル一棟、玩具を取り揃えているオモチャ館だ。  別段何が欲しいわけではなかったが、暇を潰すには丁度よい。 やる時間がないので最近は眺めるだけだが、ジグソーパズルの新作を確認したり、大人向けの知恵の輪を何度も挑戦して、――結局元の棚に戻したり――。  それから帰り際に、ガチャポンが陳列されたエリアに足を踏み入れる。 時雨がひそかに楽しみにしているのは、もう第三弾まで発売されている、ニャンコの寝姿シリーズだ。
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