【化野1-2】

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「えーなんでなんで? シノすごいじゃん? 恥ずかしいことなんてどこにもないじゃん」 クロ先輩はノンキにさとしてくれるが、当の本人からすれば、イタイ出来事でしかない。 ほとんど思いつきで書いた話。 読みたい本がなかったので、自分で書いてみたらいい具合によく出来た。 ちょうど規定内の作品だったため、賞金欲しさに送ってみた――。 もちろん、入選したらいいなという欲はあった。それでもまさか本にまでなってしまうとは。 「なんでシノ、そっちの道にいかなかったわけ?」 「いや、そこまで熱意があったわけでもないですし、たまたま運がよかったかな~って」 シドロモドロに応えつつ、俺はどうにかこの話題を終了させたいと思っているのに、 「なぁなぁ、どんなジャンル書いてわけ?」 あぁ、クロ先輩あんまり興味持たないで下さい。 「あのっ、もういいじゃないですか、昔のことだし……って、うわっ!!」 突然の急ブレーキに対応が遅れて、したたかに運転席のシートに顔面を打ち付けた。 眼鏡がみっともなくズレる。 「シロ、……意地悪だな」 シートベルトのおかげで、ヒドイ目にはあっていないクロ先輩は、やれやれといったあきれた声をだした。 「アダシノ、四の五のいってないで本持ってくりゃいいんだよ」 振り返ったシロ先輩の形相は、背筋がゾッとするほど美しかったが、その反面、震え上がるほど恐ろしかった。 「返事は?」 有無をいわせない声音に、 「は、はい……」 としか俺はいえなかった。 アカ鬼アオ鬼とはまたちがうシロ先輩の恐ろしさは、狭い車内を充たすには十分で、沈黙の空気はあまりにも重かった。 今まで、さっさと早く、姉と暮らすマンションに到着してほしい、と切実に願ったことはなかった。  
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