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「えーなんでなんで? シノすごいじゃん? 恥ずかしいことなんてどこにもないじゃん」
クロ先輩はノンキにさとしてくれるが、当の本人からすれば、イタイ出来事でしかない。
ほとんど思いつきで書いた話。
読みたい本がなかったので、自分で書いてみたらいい具合によく出来た。
ちょうど規定内の作品だったため、賞金欲しさに送ってみた――。
もちろん、入選したらいいなという欲はあった。それでもまさか本にまでなってしまうとは。
「なんでシノ、そっちの道にいかなかったわけ?」
「いや、そこまで熱意があったわけでもないですし、たまたま運がよかったかな~って」
シドロモドロに応えつつ、俺はどうにかこの話題を終了させたいと思っているのに、
「なぁなぁ、どんなジャンル書いてわけ?」
あぁ、クロ先輩あんまり興味持たないで下さい。
「あのっ、もういいじゃないですか、昔のことだし……って、うわっ!!」
突然の急ブレーキに対応が遅れて、したたかに運転席のシートに顔面を打ち付けた。
眼鏡がみっともなくズレる。
「シロ、……意地悪だな」
シートベルトのおかげで、ヒドイ目にはあっていないクロ先輩は、やれやれといったあきれた声をだした。
「アダシノ、四の五のいってないで本持ってくりゃいいんだよ」
振り返ったシロ先輩の形相は、背筋がゾッとするほど美しかったが、その反面、震え上がるほど恐ろしかった。
「返事は?」
有無をいわせない声音に、
「は、はい……」
としか俺はいえなかった。
アカ鬼アオ鬼とはまたちがうシロ先輩の恐ろしさは、狭い車内を充たすには十分で、沈黙の空気はあまりにも重かった。
今まで、さっさと早く、姉と暮らすマンションに到着してほしい、と切実に願ったことはなかった。
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