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真夜中に目が覚めた。
露わになった肩が肌寒かったのか、それともカーテンの隙間から覗く月光が、明るすぎたせいなのかもしれない。
今宵は満月のおかげで、小さな六畳一間の安アパートは薄明かりに包まれている。
隣に眠る黒杉の寝顔を間近に、白百合は目を細めた。
安らかな寝息をたてている相手を起こさないように、そっと形の良い指先が、彼の無精髭にまみれた口唇をなぞる。
見た目はそこそこ――、けれど車で泊まりに来る白百合のために、(本人は乗らないのに)大家に頼み込んで格安で駐車場を借りてくれた優しさや、その口唇から発せられる低い声音が、彼はひっそりと好きだった。
「うぅ……ん……?」
白百合の行為にか眠りの住人は意識を取り戻した。
ただ、あまりにも眠いせいか、開いた目はかなり細い。
「起こした?」
悪びれることもなく、白百合は黒杉の顔を覗き込み、目蓋に口づけを落とす。
「月、明るいよ」
「……そういやぁ、十五夜だったか」
お月見らしいことなどまったくしてなかったな、と二人は今更に気がつく。
「ねぇ、綺麗だよ」
僅かに閉め損ねたカーテンの隙間から、青白い円い月が姿を表す。
「クロと一緒に居るから綺麗なのかな」
「あぁ、夏目漱石の『愛してる』」
かの文豪は「I Love You」を「あなたと居ると、月が綺麗ですね」と訳したそうだ。
そのことを知っていた二人はまるで言葉遊びのように、部屋に差し込む月の光だけで会話を楽しむ。
薄明かりの中、顔を近づけた。
「クロ寒い」
男にしては冷え症の白百合は、暗に温めてと黒杉にねだる。
黒杉はなにもいわずに腕枕にしていた片腕を、白百合の細い肩を抱き寄せて自分の肌に密着させた。
頭を撫でながら黒杉は、暗にさっさと寝ろと白百合を促す。
「ふふっ」
白百合は自分の要求に応じてもらえ、満足げに微笑んだ。
それから黒杉特有の匂いにたまらず、
「ねぇキスして」
と、甘くねだる。
撫でていた手がふと止まると、
「したら寝ろよ」
吐息のように洩れる低い声が耳に、じん、と残った。
冷たい白百合の薄い口唇に、無精髭のチリリとした痛みが走りながらも、黒杉の温もりが舞い降りた。
「…………」
予想していたよりも軽いキスは、白百合を満足させるには足りなくて、再び眠りに落ちようとしている黒杉の口唇を断りなしに重ねる。
「ん……ぅ」
眠たいながらも、白百合の行為に反応して舌を吸い合えば、
「……さっきしたばっかだろ?」
月が昇る前に散々したはずだと、黒杉はやたらと求めてくる恋人をたしなめると、
「したくなった」
短く言って、互いに一糸纏わぬ姿でいる二人には、触れ合う肌は温かい。
「ねむい」
「クロは寝てていいよ」
そういいながら横に寝ている黒杉に被さるように、白百合は上乗りになると、互いの一部を握り擦り合わせる。
「ん……っ……んっ」
はじめはゆっくりと、それからリズカルに動かしつづければ、次第に熱と硬さが集中してくる。
その行為をなるべく我関せずと、マグロのように横たわっていた黒杉だが、
「ねぇ……、クロの……っ、……こんなに……おっき、い……」
耳元で誘うように、熱い吐息をこぼし、何度も口づけを重ね、
「ねぇ……クロ、……ねぇ……っ」
挿入ていい――?
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