■ベンチタイム ただいま発酵中

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 仕事柄、生き物を飼いことができず、それでも都会の路地裏で逞しく生活する野良ネコの愛くるしさに時々餌をあげてしまうほどだ。  晴海からは「うちが魚屋だったらよかったのになぁ」と相変わらず母が聞いたら怒髪天を衝かれる、身もふたもないことを言ってのけた。  休日なので小・中学生の子供が多かった。  その並びに、不自然な空間が存在する。  遠巻きに眺める子供たちを、親は「見るんじゃありません」と腕を引っ張ってその場を後にする。  気になった時雨はそっとその場所に近づくと、一人のいい大人がしゃがみこんでずらりと並んだガチャポンの一つを占領していた。  仕事のサボり中なのか、スーツ姿で一体いくらつぎ込んだのかわからないほどのカプセルケースがその場に散乱している。  店員ももう少し注意しろよ。  接客業をしている時雨は対応の悪い店員に毒づきながら、時雨は少し離れた場所でそのスーツ男が退散するのを待っていた。  なぜならば、男がガチャガチャとハンドルを回しているのは、ニャンコ寝姿シリーズの第四弾だからだ。 「あぁ、クソっ!」  苛立ちを隠さず、ブランド物の財布から小銭を取り出す。 中身を確認するとすぐに彼はその場を立ち去った。  開けっ放しになって散乱しているカプセルケースを片付ける気がないないことを見るに、彼は両替に行ったのだ。  すぐ側に両替機はあったが、そこを使わなかったということは、万札なのだろう。  時雨は少し逡巡した後、意を決して彼が去ったガチャポンの前に立った。  素知らぬ顔で。
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