14人が本棚に入れています
本棚に追加
解答
「ところでさ、クロにとって『愛してる』ってなに?」
「は? なんだよいきなり」
真夜中の情事を済ませ、再び眠りにつこうとしている温もりの中で、白百合は思い出したかのように訊ねた。
「聞きたくなっただけ」
「うーん、……反対にお前はなんだよ」
「ぅん……、こうやっていると温かい……」
あぁ、そういうことか、と合点がいった黒杉だが、すでに白百合は安らかな寝息をたて、――とうに夢の中だった。
**
翌日。サークルのたまり場にて。
「どっちかっつーと、嫉妬深けーだけだよなー」
黒杉がからかい交じりに揶揄すると、チラリと目線があった。
一瞬だけ、無精髭の口元がつりあがったのを白百合は見逃しはしなかった。
「そうそうシロ、『アイラブユー』だけどな、おれだったら、相手の全てを紅く染めたい、かなー」
「なんすか、尾崎豊っすか? クロ先輩、微妙に物騒っすね」
意味を読み違えた後輩は軽く聞き流したが、もちろん白百合にはわかっていた。
かぁっ、と全身の血潮が駆け巡る。
「この馬鹿クロっ!」
平常心という厚い化粧をしなければ、羞恥のあまり全身が紅く染まることを、白百合はよくわかっていたからだ。
****
いつものように『ニソワラ会』と掲げた看板の研究室でたむろしていると、
「シロ先輩、首筋のところどうしたんすか?」
大学のサークルの後輩に指摘され、白百合は慌てて壁に掛かっている鏡の前に立つと、
「!」
確かめれば昨日の黒杉の情交の後が、幾つもくっきりと浮かび上がっていた。
「あ、季節外れの虫刺されッスか?」
見当外れな後輩の会話に、部屋の隅でソファに寝転んでいた黒杉が、呵々と笑った。
「化野、虫刺されというより、むしろ虫よけだろ」
一瞬、なんのことか理解できないでいた化野(後輩)だが、
「あ、」
ようやく意味がわかったらしく、
「あの、情熱的な方なんすね」
色事に鈍い後輩は顔を紅くしながら、白百合の紅い跡をそれ以上は追及しなかった。
最初のコメントを投稿しよう!