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こっそりと覗き見をしている間に小銭を用意して、財布の中には二回ほどできる分しか入っていなかったので、男が戻ってくる前に素早く投入した。
七種類あるうち、どれが出ても構わなかったが、出来れば茶トラか黒猫がいいなぁ、と思いを込めてハンドルを回す。
ガチャリ。
回転と共に落ちてきたカプセルケースの中身は、三毛猫。
二回目――、……三毛猫。
……あぁ、出来ることならここに散乱しているほかのと交換してしまいたい。
うっかり犯罪に手を染めてしまおうかと思った瞬間、はっ、と背後に気配を感じた。
恐る恐る後ろを振り返ると、先ほどのスーツ男だった。
「ずるいじゃないか君!」
それは激昂というよりは駄々っ子のような口ぶりであった。
バカみたいにデカい兄と同じくらいかそれ以上か、時雨の頭一つ分を軽く超えている高身長。
歳は二十代後半ぐらい。
クセっ毛の短髪。
意志の強そうな濃い眉に彫りの深い眼。筋の通った鼻。大きな口。
南米系の血が混じっているようなその顔立ちに、一瞬だけ見惚れた。
とはいっても本当に一瞬で、時雨は素早く接客用の笑顔を作り上げた。
「あのなにか?」
こっちには非がないように、あなたがここで何をしていたかなんて知りません、という雰囲気を醸し出しながら。
決してあなたの隙をついて横取りしたわけじゃありません。
そういった素知らぬ顔で時雨は相手の出方を待った。
「三毛猫! しかも二つも! 俺がこんなにつぎ込んでも出てこなかったのに!」
どうやらこのスーツ男は三毛猫が目当てだったらしい。
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