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辺りに散々転がっているカプセルを推測するに、一度も出ていないのだろう。
運が悪いのか反対に違う意味で引きが強いのか。
これはチャンスだとばかりに、
「あの良かったら、交換しませんか?」
と、時雨が提案した。
思わぬ返しだったのか、男は意表をつかれた顔で半瞬後「ふむ」と顎に指を擦った。
「よかろう。俺は三毛猫だけ手に入れば構わないからな」
どんだけつぎ込んでんだよ。
ってか、運ないな、この人。
内心呆れながら、時雨の提案に乗ってくれたことに感謝した。
「ではいいぞ。どれがいい?」
「じゃあ、茶トラか黒猫を」
「二つとも交換してくれればいいのだが、君は三毛猫好きなのか?」
どうやらよっぽど三毛猫が好きなのだろう。
「あーいえ。じゃあ、二つお願いできますか」
お安い御用だ。と言わんばかりに、男は景気よくカプセルケースを開けていき、茶トラと黒猫の寝姿フィギュアを渡してくれた。
茶トラ、七匹。
黒猫、九匹。
それからおまけとばかりに、アメシリカンョートヘアー、五匹。
スコティッシュホールド、八匹。
「…………」
「助かったよ。俺は無類の三毛猫好きでね、ありがとう。お嬢……」
その最後の一言で、時雨は途端に嫌な顔になった。
時雨は服装にかなり気をつかっていた。
それはお洒落というわけではなく、生まれつき中性的な顔立ちは、男である彼が女に見えてしまうからである。
うっかり休日ともあって服装に対して油断していた。
去年嫁いで行ってしまった姉の、買ったけど似合わなかったからあげる、と譲られたユニセックスな服を着てきてしまったのが原因だ。
ちなみに、晴海のでは大きすぎて、服を借りるにしても、まったくサイズが合わないのである。
「……失礼。青年」
だが、このスーツ男は最後の一言を告げる前に、言い直したのである。
それは時雨にとって、新鮮な感覚であった。
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