■ベンチタイム ただいま発酵中

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 辺りに散々転がっているカプセルを推測するに、一度も出ていないのだろう。  運が悪いのか反対に違う意味で引きが強いのか。  これはチャンスだとばかりに、 「あの良かったら、交換しませんか?」  と、時雨が提案した。  思わぬ返しだったのか、男は意表をつかれた顔で半瞬後「ふむ」と顎に指を擦った。 「よかろう。俺は三毛猫だけ手に入れば構わないからな」  どんだけつぎ込んでんだよ。  ってか、運ないな、この人。  内心呆れながら、時雨の提案に乗ってくれたことに感謝した。 「ではいいぞ。どれがいい?」 「じゃあ、茶トラか黒猫を」 「二つとも交換してくれればいいのだが、君は三毛猫好きなのか?」 どうやらよっぽど三毛猫が好きなのだろう。 「あーいえ。じゃあ、二つお願いできますか」  お安い御用だ。と言わんばかりに、男は景気よくカプセルケースを開けていき、茶トラと黒猫の寝姿フィギュアを渡してくれた。  茶トラ、七匹。  黒猫、九匹。  それからおまけとばかりに、アメシリカンョートヘアー、五匹。  スコティッシュホールド、八匹。 「…………」 「助かったよ。俺は無類の三毛猫好きでね、ありがとう。お嬢……」  その最後の一言で、時雨は途端に嫌な顔になった。  時雨は服装にかなり気をつかっていた。  それはお洒落というわけではなく、生まれつき中性的な顔立ちは、男である彼が女に見えてしまうからである。  うっかり休日ともあって服装に対して油断していた。  去年嫁いで行ってしまった姉の、買ったけど似合わなかったからあげる、と譲られたユニセックスな服を着てきてしまったのが原因だ。  ちなみに、晴海のでは大きすぎて、服を借りるにしても、まったくサイズが合わないのである。 「……失礼。青年」  だが、このスーツ男は最後の一言を告げる前に、言い直したのである。  それは時雨にとって、新鮮な感覚であった。
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