不器用な贈り物

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 なんということだ…。  画面左端に映る時刻を見た私は愕然とした。  今日、いやつい数分前までの昨日は私の妻である琴乃の誕生日であり、私と妻の結婚記念日だった。  もう一度言おう、誕生日と結婚記念日だ。    私はすぐに中途半端な書き残しの論文を保存してパソコンの電源を落とし、隣の椅子にかけていた鞄とジャケットを引ったくるように持ちあげて研究室を出ようとする。 「もう書き終わったんですか?」  ドアに手をかけたところで後ろから院生が怪訝な顔をしてこちらをのぞいていた。 「私には他にやる事があるのだ。論文なんか人生でするべき優先順位の底辺に等しい。君も今すぐ帰ってたまには実家に連絡を入れた方がよっぽど誰かのためになる」  院生の呼び止める声を遮断するように、乱暴にドアを閉めた。
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