不器用な贈り物

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 満月の光を背中に浴びながら商店街を歩く。一日遅れたが、妻にケーキを買って帰ろう。  ケーキ屋に着いた私はドアに張り付いて店内を見渡す。案の定、店内は薄暗い。  私は構わずドアを強く叩いた。ケーキならコンビニにもあるが、記念すべき日にコンビニのケーキを持って帰ることは私のプライドが許さなかった。  休む事なく叩き続けていると、二階の窓が開き、中から屈強な男がいかにも不機嫌な顔をして現れた。彼とは二十年来の親友だ。 「うるせえぞ。チビたちが起きちまうだろ」  怒鳴る親友の声の方がよっぽど近所迷惑だ。私も顔を上げて負けじと声を張る。 「そんなことより急用なのだ。今からケーキを作って欲しい。いや、何か余っているケーキがあれば分けて欲しい」 「野良猫じゃあるまいし、なんだって今必要なんだ?」  親友はさも疲れているとでも言いたげに大きな欠伸を出す。私は構わず続ける。 「妻の誕生日なのだ。至急頼む」 「何言ってるんだ。そのケーキなら昨日の午前中に届けたぞ。電話で口酸っぱく言われたからな。研究しすぎて頭おかしくなったんじゃないか?」  嘆息をつく親友の言葉を私はしばらく理解ができなかった。電話で予約した覚えは一切ない。自分で言うのもあれだが、私はそこまで気の回る人間ではない。そんな事ができるならこうして慌てていない。 「そいつは赤の他人だ。親友の声を忘れるとは何事だ」 地団駄を踏んで足早に去った。
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