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ケーキが駄目なら花だ。
妻は花が好きだ。特に金木犀や山茶花の咲く秋の花が好きと言っていた。
花屋の前に着くと、ちょうど鍵を閉めている知り合いの女性がいたので声をかけた。
「閉めたところにすまない。至急花束を拵えて欲しい」
すると女性は、
「おかしいですね。昨日の昼過ぎに届けましたけれど…」
と首を傾げるのでますます驚いた。予約の名前を聞くと確かに私の名前であった。おかしい、ケーキならともかく花までも予約していたとは。
これも全く身に覚えがないので少しばかり怖く思えた。
「さては、私の名前を偽って妻に近寄ろうとしている阿呆がいるな」
こんな所で道草を食っている場合ではない。こうしている間にもその阿呆が妻に手を出しているやも知れん。
「あの、大丈夫ですか?」
恐る恐る伺う女性を無視して私は家路を急いだ。
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