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玄関の扉を開け放ち、靴を脱ぎ散らかしてリビングに入ったが妻の姿は見えない。悪い予感がした私は他の部屋も探してみる。寝室、風呂場、トイレ、どこを探しても見当たらない。私は絶望と怒りで混沌としていた。阿呆を見つけた際には、生涯拳を出した事ない私でも馬乗りになる勢いだった。
私は内から騒がしく鳴る鼓動を抑えながらリビングの隣にある和室につながる襖に手をかけた。ここにいなければ、すぐに警察に連絡しなければいけない。阿呆がいたら馬乗りだ。
慎重に襖を引くと、奥の壁に向かって妻がちょこんと正座していて、とりあえず胸を撫で下ろした。しかし、私は妻の他にあるものを見て目を丸くした。
妻の隣にはホール状のいちごのケーキ、そして秋の花をふんだんに飾った大きな花束があった。私が予約したとされている妻への贈り物が手をつけずに置かれていた。
そして妻の目前には買った覚えのない小さな仏壇があり、中央の写真には紛れもない、私が写っていた。
状況を飲み込めずにリビングと和室の境目で立ち止まっていると、妻が仏壇に語りかけた。
「新さん、たくさんのプレゼントをありがとうございます。ケーキは1人で食べるには大きすぎますし、こんな大きな花束を生ける花瓶はうちにありませんが、とても嬉しいです」
仏壇に向かってたおやかに頭を下げる妻の背中をただ見つめていた。妻の背中が一瞬膨らんで、でも、と体が起き上がった。
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