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さえない男、一念発起
俺がそのネットゲームに出会ったのは、つい二週間前の事だった。
三十六歳で平社員の俺はこれといった特技がなく、おまけに独身で、彼女いない歴もかなり長い。
そんなうだつの上がらない凡人の俺でも、新興ゲーム会社が開発したネットゲーム、『デスティニーブレイド』を遊べば、勇者として活躍できるというのだ。
勇者になるまでの道のりは相当厳しいと聞くが、ひと度その称号を手に入れてしまえば、もうこっちのもの。
勇者へと転職を果たしたキャラは、たとえモンスターの群れが相手でも、一人で無双できるほどの圧倒的な力を得られるらしい。
さらに勇者ならではの特権として、異性プレイヤーとの婚姻までもがアンロックされるんだそうだ。
それが何を意味するのかと言うと、つまり、俺と女性プレイヤーが、オンライン上で仮想結婚できるという事。
ゆくゆくは、その〝ネトゲ婚〟をした娘とリアルで出会い、本物の恋にまで発展……なんて事になるかも知れない。
そんな理想の展開を現実のものにさせてくれるのが、このデスティニーブレイドだってわけだ。
ここだけの話、俺にとっては勇者として無双するよりも、ネトゲ婚に寄せる期待の方が大きい。
モテない・さえない・金もないという、ないない尽くしの俺はこのゲームの可能性に賭け、わざわざ中古でパソコンを購入し、ネット回線まで引いた。
たとえ茨の道であろうが、何ヶ月かかろうが絶対に勇者にまで上り詰めて、かわいい嫁さんをゲットしてやる!
――と思い立ったはいいが、ネットに疎い俺は、ゲームの〝アカウント登録〟なる手続きでさっそくつまづいてしまった。
何だコレ、ただゲームをするだけなのに、個人情報を入力しなきゃいけないのか?
勇者になるのも大変なんだなぁ。
アカウントに登録する名前は本名の神月魁斗でいいとして、今度はゲーム内で使うニックネームを決める必要があるのか。
うーん、どんな名前が一番受けがいいのだろう。
同様にネトゲを遊んでいる職場の後輩によると、アニメキャラとか、食べ物とか、名前を挟む記号を付けているような奴は〝地雷〟と呼ばれて避けられる傾向にあるらしい。
そもそも俺は地雷の意味から分からないんだが、とにかく、中二病丸出しな名前はダメだという事だな。
よし、それじゃあ本名をそのままカタカナに変えて、〝カイト〟で行こう。
勇者カイト、なかなかいい響きじゃん。
……ん。何だこのメッセージは?
「その名前はすでに使われています」だって?
よく分からんが、すでにカイトって名前でゲームを遊んでる人が他にいるって事?
でも俺だってカイトだぞ。名前の重複くらい、リアルオンラインなら普通にあるじゃねーかよぉ。
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