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もっと正攻法で、真実を見つけた方がいいに決まっている。自分でもそれはわかっている。
それでも今、どこかで気分が高揚しているのは――少しだけ、昔憧れたヒーローに近づけているような気がしているから、だろうか。
柔道を始めたきっかけもそんなものだった。
女だからとナメられたくない。女だって、大切な誰かを守れるくらいの強さが欲しい。いつか、自分が大切な存在を守るヒーローになりたい。
子供には恵まれなかったけれど。それでも自分は、大切な夫という名の家族を得ることができた。一馬を守れる自分でいたいと本当に願うならば、目の前の勇敢な少年を守るくらいの強さはきっと必要なもののはずだろう。そりゃあ、法律に微妙に触れる行為をすることに躊躇いや戸惑いがないと言えば嘘になるけれど。
――あたしがしていることも、正しくないかもしれない。……でも。
希央のスマホは、やはり親に没収されてしまったらしい。ただ音から察するに、彼が服の下に隠してあるボロっちい一夏のスマホには、施設の職員も両親もまだ気づいていない様子だった。まあ、普通小学生の男の子が、もう一台スマホを隠しているなんてそうそう考えないだろう。念入りに服の下までチェックされたら面倒だったが、幸いそんなこともないようだった。
『それでは、息子をよろしくお願いしますね。一週間、みっちり鍛えてやってください』
わが子を心底心配しているように聞こえる、母親の声。一夏はちらりと生垣から顔を出して、施設の様子を伺った。母親は何度も何度も施設の職員らしき女性に頭を下げている。わが子が施設の中へと連れて行かれるのを見送ったあと、母親はそのまま買い物にでも向かうつもりなのか、自宅ではなく奥の道路の方へと歩いて行った。息子を虐待の疑いのある施設に預けておいて、よくもまあ平気で買い物になんぞ行けるものだ――いや、そもそも本当にやばいと思っていたならば、預けることなんかするはずもないのだけれど。
まだ、決定的な音は何も聞こえない。どうやら希央は、奥の部屋でお茶を出され、待っているようにと命じられているらしい。一夏に聞こえるようにするためか、希央はぼそっと“このお茶、飲んで大丈夫かよ”と呟いていた。同感だ。おかしな薬が入っていないとは言い切れないのが恐ろしい。
しばらく待っていると、施設の前に一台の車が止まった。窓にシートでも貼ってあるのか(透過率が角に低いフィルターを貼るのは違反行為だったはずだが)、そのワゴン車の中の様子は全く見えない。
だが、車から降りてきた者達を見て、一夏は度胆を抜かされることになるのである。
――な、な、なんじゃありゃ……!?
降りてきた複数の男女は。全員葬式のような黒い服を着て――全員、仮面のようなものを被っていたのだから。
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