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「人間って、本当に怖い」
シンプルだが、今はそれ以上の感想が出てこない。ようやく警察から解放されて自宅に戻ることができた一夏は、ぐったりとソファーに沈み込んで一馬にそうぼやいた。
「ご近所に、あんなモノがあるなんて本当に思ってもみなかった。やっぱり、認可されてない怪しい施設ってのは近づかない方がいいってことだね。保育園とかなら、認可されてなくても真っ当に運営されてるところもあるんだろうけどさあ」
「お疲れ、一夏。スマホ、どっちもしばらく帰ってこないか」
「多分ね。ごめん一馬、片方はあんたのスマホなのに」
「気にしなくていいよ。俺には、こんなことくらいしかできなかったからさ。お疲れ様、一夏。カッコよかったよ」
隣あわせにソファーに座ってチューハイを空けつつ、ささやかなお疲れ様会をする。
今日一日、本当にいろんなことがありすぎた。果たして一体ここから、さらに何人が逮捕されることになるのやら、だ。
結論を言うと。あの児童預かり施設は――某カルト教団の運営する施設であった、というオチだったのである。彼らは幼い子供達に対して、“教育”という名目でおぞましい虐待行為を繰り返していたのだった。ある子供は手首を縛ってつるされて放置され、ある子供は縛られた状態で鞭で打たれ、ある子供は延々と真っ暗な闇の中に閉じ込められ、ある子供は複数人の大人に性的暴行を受けた。そりゃ、どんな悪ガキだって性格が変わってしまうというものである。クチがきける子供には、写真をチラつかせて“誰にも言うな”と脅し、場合には口封じもかねて脱法ドラッグまで使っていたというのだから笑えもしない話である。希央が出されたお茶を飲まなかったのは、結果的に大正解であったというわけだ。
やばいと思って一夏がドアを蹴り破り、突入した時――既に希央は半裸で縛られた状態だった。持っていたスマートフォンの存在が直前にバレたために(寸前で電源を切ったようで、誰かと通話していたことには気づかれなかったと思われるが)お仕置きされそうになっていたようだった。同じく半裸に仮面の男達に取り囲まれていたという状況。あんな小さな子供に、一体何をするつもりだったのかと思うと本当に寒気が止まらなくなってくる。
投げ飛ばされ、蹴り倒された男達は。一夏の事を口汚く罵った。
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