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加えてその怪我のせいで、一夏は子供を産むのが限りなく難しい体になってしまった。
大学を卒業したら結婚しようと約束していた一馬に心底申し訳ない――そう思っていた一夏を支えてくれたのもまた、一馬であったのである。
『子供より、何より、一夏さんが生きていてくれる未来があればそれでいいです。俺の気持ちは変わりません』
――あたしは、幸せ者だな。
小さな子供を見るたびに、自分が得られなかった夢を思い出す。保育士になるという夢も、愛する人との間に子供を作る夢も叶わなかった。それでも、一夏が今を不幸だと思わないのは、愛する夫と愛犬がいるからに他ならない。
ゆえに今日も今日とて、一夏はメーテルを連れて散歩へ向かうのである。全てはクタクタで帰ってくるであろう夫に、大好きなハンバーグをごちそうするために。スーパー“ももの”は野菜もいいが、良い国産肉が置いてあるのもいい。メーテルの散歩がてら夕方の買い出しにいくのが、一夏にとっての日課なのだった。
メーテルは今日もあっちへクンクン、こっちへクンクンと嗅ぎまわるのに忙しい。好奇心旺盛で人間とかわいいメス犬大好きな犬は、いつもの散歩道も毎日冒険気分なのかもしれなかった。おかげさまで散歩を終えるのはいつも相当時間がかかることになる。
「ん?」
この横断歩道を渡ればスーパーだ、と思ったところで。一夏は、見慣れた女性が子供たちを散歩させている現場を目撃した。
――いつもの保育士さんじゃん。へえ、こっちの方まで散歩に来てるんだ。
今日は五人子供を連れて歩いている。この保育園だか幼稚園だかは、制服というものがないのかもしれない。連れている子供たちはいつも私服姿だった。
こんな車の多い通りに、女性一人で大丈夫かな。そこまで思った一夏は、あれ?と首を捻ることになったのである。
――あのひと……幼稚園か保育園の先生だと思ってたけど、違うの?
子供たちの顔ぶれが一定でないのはいつものこと。それでも今日は、強い違和感を覚えたのである。
何故なら連れられている子供の中に一人――明らかに幼稚園児の年齢ではなさそうな、やや体の大きな男の子がいたのだから。
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