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白い女がいた。
真っ白な女が天井に張り付くようにして、祥子を見下ろしている。
長い髪の毛と両腕がだらりと力なく祥子に向けて垂れ下がり、隙間からぎょろりと白い目が祥子を見つめていた。……いや、よく見ればその目は真っ赤に血走り、これでもかというほど大きく見開かれていた。
――あの目だ。
送られてきたスマホのホーム画面に設定されていたものと、瓜二つだった。
じっと自分を見下ろす二つの瞳が恐ろしく、目をそらしたいのに動いてくれない。いや、動かないのは目だけではない。全身が金縛りにあったかのように、言う事を聞いてくれなかった。
ポツリ、と何かが頬を打ち、すくみあがる。
下に向けて垂れ下がった両手の先から、何かが滴り落ちていた。
よく見れば腕だけが不自然にどす黒い。目を凝らすと、それが無数の傷である事に気付いた。
スマホに保存されていたのと同じ、無数のリストカットの跡。
そこから流れ出る血液が、ポタポタと雫のように祥子の顔目掛けて流れ落ちているのだった。
顔を背ける事すら叶わず、頭上の白い女とじっと見つめ合う。
助けて。
じんわりと氷のように冷たい恐怖が全身を駆け巡り、そう願わずにはいられなかった。
お願いだから助けて。何もしないで。お願い。
想いが通じたのか、白い女の口元に微かに笑みが浮かんだ。
――と思った次の瞬間。
女が祥子目掛けて降って来た。
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