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「そろそろ行こうか」
母の支度が整った頃合いを見て皆に声を掛けると、父はいつの間にか準備を終えており、車も暖めてあると言う。
「さすがお父さん」
「普通だ」
父は少し照れたような顔で玄関へと向かって行った。
それに続くように、母と私と兄の3人も玄関へと足を運んだ。
コートを着込み、外に出て、誰ともなく空を見上げる。
「うわー……」
「綺麗だな」
私と兄が呟くと「今日は冷えたからね」と母が言いながら、父と先に車へと歩を進めた。
きちんと空を見上げるのは、いつぶりだろうか。
私が暮らしている場所では、キラキラとしたネオンは見えてもこんな壮大な星空は見られない。
壮大と言っても、辺りは街灯なども無く真っ暗闇だ。そこにあるのは、星空だけ。
ずっと見つめていると、その奥の奥にあるものまでが見えてきそうで……その未知なる魅力的な闇に吸い込まれダイブしてしまいそうな感覚に捕らわれる。
少しの間星空に見とれていると、兄が声を掛けてきた。
冷えた空気が兄の声に凛とした響きを与える。
「なあ。覚えてるか?」
「……うん。覚えてる」
「そっか」
「うん」
確認しなくても、わかる。
私達二人は、あの火葬場で母の顔とあの煙を眺めて以来、空を見上げる度に足をとめていた。
二人で、声を掛け合うわけでもなく。ただただ空を眺めていた。
あの日以来その話題についてお互いに語り合った事はなかったが、兄が今日初めて声を掛けてきたのだ。
何か、言いたいことがあるのだろう。
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