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「それでは早速ですが、タイムスリップの方法をお伝えします。」
そういえばどうやってタイムスリップするかを聞いていなかったことを思い出す。
映画のように車だろうか、それか何か機械に入ってだろうか、などと考えを巡らせていると佐藤は見透かしたかのように少し笑った。
「残念ながら映画のようにカッコいい装置!みたいなのは無いんです。晴さん、あなた自身の想いの力で戻って頂きます。」
「想いの力?」
「はい、何度も先ほどからお伝えしていますが、想いの力がポイントになってきます。私の役割はあなたにタイムスリップするきっかけを与えるだけで、時間指定も場所指定も残念ながらできません。」
「それは、」
なかなかリスキーだな、と少し冷静になった頭で考える。
もし赤ちゃん時代に戻されたらどうなるのだろう。
「あー、物心つく前には戻りませんからご安心くださいね。戻る時間、場所はあなたの潜在的意識の中に強く残っている場面。一番後悔している出来事が起こったその日に、晴さん自身が飛ばされます。」
佐藤の説明はこうだ。
タイムスリップはとにかく想いの力がキーらしく、自分があそこに戻りたい!と強く願った場所に戻される。
しかしどこでも戻れる訳ではなくて、大体の人間は"楽しかった!"や"嬉しかった!"のプラスの感情よりもマイナスの感情が勝ってしまうため、後悔している場面に飛ぶことが多い。
というかプラスの感情の場面に飛んだ人間は今まで見たことがないらしい。
そして俺の場合は咲良への想いの強さがタイムスリップのキーな為、咲良と出会う前に戻ることはほぼないと思っていいとのことだった。
恐らく恋心を自覚した以降と思っていいみたいだ。
だがとりあえず飛んでみないと分からないこともあるらしく、潜在的意識に任せる他はないそうだが。
「それでは説明はこんな感じですが。他に何かご質問ございませんか?」
「はい、ないです。」
「分かりました。では肝心のタイムスリップですが、少し心の整理が必要だと思います。ただこちらの都合もありまして、出来れば数日以内に行いたいのですが、」
「10秒だけ待ってください」
言葉を被せられたことにか、それとも返答にか、時計を見ていた佐藤が勢いよく顔をあげた気配を感じるが、俺は随分放置していた携帯を取り出した。
先程のトーク画面を開く。
祝福の言葉と華やかな写真の数々をざっとスクロールして、一言「おめでとう」と送信した。
すぐに画面を閉じて顔をあげると、驚きで見開かれた目と視線があった。
「お待たせしました。もう、この人生でやり残したことはありません。大丈夫です。」
俺を見て固まっていた佐藤は我に帰ったのか、ぱちぱちと瞬きをして頷いた。
「そう、ですか。承知致しました。」
話すのに丁度いい距離感を保っていた彼が、手を伸ばせば触れられる距離まで近づいてくる。
そして開いた手のひらが顔の前へ掲げられた。
「新谷晴さん。良い人生を。」
その言葉を聞き終わったと同時に頭がくらっとして立ちくらみを起こした。
やばい、倒れる。
そう思った瞬間に意識が飛んだ。
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