1人が本棚に入れています
本棚に追加
second lap「言いたかった本心」
バスが動きだして車内はわくわくムードに包まれていた。
時間が経てば経つほど、凄く思い切ったことを言ってしまったと恥ずかしくなってきた。
物理的にも頭を抱えたくなってきた時、咲良が口を開いた。
「晴ちゃん、ありがとね。隣、誘ってくれて。」
その言葉に視線をやると少し困ったような表情の咲良と目が合った。
「いや、ごめん。困らせた、よな。」
一気に襲ってきた不安が口をついて出てしまう。
嫌われてはいない、と思っていたけど、そうではなかったら?
心を負の思いが占めていく。
「ううん、困ってないよ。でもかなり驚いたかな!晴ちゃん、私のこと苦手?なのかなと思ってたから。」
咲良の言葉に驚愕する。
なんで、そんなことになってるんだ?
好きとは思えど、咲良への気持ちがマイナスになったことなんて一度もないのに。
「俺、苦手なんて思ったことないんだけど。なんで?」
「だって晴ちゃん、高校くらいから全然喋ってくれなくなったし、私と幼なじみって周りに知られたくないのかなって。また普通に話せる日が来たらいいなーって私は思ってたから、今日晴ちゃんからひっさしぶりに声かけてくれて凄く嬉しかったけどね!」
ひっさしぶり、か。
この言葉に全てが詰まっている気がした。
本当に自分が情けなくなる。
好きのすの字どころか、苦手と思わせてしまっていたなんて。
咲良を見ることができなくて、前の座席を見つめた。
「それは本当にごめん。咲良がどう、とかじゃなくて全部俺の問題だ。でも咲良を苦手と思ったことは一度もない。もっと咲良と話せばよかったって後悔してる。」
そうだ、つまらないプライドと気恥ずかしさから素直になれなくて、咲良と向き合えるチャンスを棒に振ってきた。
だからこそ。
「これから、もっと話したい。咲良と話せなかった時間分、話したい。」
咲良に体を向けて、彼女の目を見てゆっくりと言葉を音に乗せた。
咲良は少し目を大きくした後、ゆっくりと頷いて笑顔を返してくれた。
思い出した。
咲良はいつも俺の言葉を、行動を真正面から受け取ってくれていた。
そして温かい気持ちを言葉にしていつも返してくれていたのに。
それが嬉しくて大好きで心地よくて、それなのにどうして忘れていたんだろう。
自分の気持ちを伝えることを、どうして怖がっていたんだろう。
もっと早く向き合えばよかった。
そうすればきっと、もっと咲良との思い出があったかもしれない。
関係ももっと違っていたかもしれない。
また後悔の念がぐるぐると渦巻いてきて、思考を巡らせていると咲良が口を開いた。
「晴ちゃんとサークルまで一緒でこうやって合宿に来てるって考えたら本当に凄いよね!っていっても大学までは私が追いかけてたんだけどね!」
大学4回生の時に咲良から聞いた話だ。
自分の行動で、咲良からあと3年後に聞くはずだった話が今されようとしている。
どんどん未来が変わっているんだ。
「知ってた?高校はね、進路に迷ってた時、晴ちゃんのお母さんからたまたま受けるところ聞いて、"咲良ちゃんも同じとこ受けなよー!"って言われて受けたの。それが一番の理由って訳ではないけど、いい高校だなとはぼんやり思ってて、そこを晴ちゃんも受けるって思ったら頑張れる気がしてさ!」
「受けることは全く知らなかったけど、咲良が同じ高校に受かったって母さんから聞いた時は本当に嬉しかったよ。」
「本当?!晴ちゃんポーカーフェイスだなー。全く分かんなかったよ!」
咲良が少し困ったように目を細めて笑う。
ころころ変わる表情が魅力的で可愛くて、思わずにやけてしまう。
これのどこがポーカーフェイスなんだ。
恥ずかしくなって口元を手で覆った。
「大学はね、ここともう一つで迷っててね。これまたいいタイミングで幸ちゃんから"お兄ちゃんここ受けるらしいから咲良ちゃんもこっちにしたらいいじゃん!"って言われてね。さすがに学部も違うし会うことも少ないだろうけど、晴ちゃんもいるならなんか安心だなぁって。」
話しながら咲良がおかしそうに笑う。
「ごめんね、勝手に。でも晴ちゃんがいるところは安心っていうか、晴ちゃんに絶大な信頼を置いてるのよ、私。」
昔、咲良に言われて嬉しかった言葉に、またあの時と同じく涙が出そうになる。
何度聞いても嬉しくて、咲良の笑顔と言葉に胸を打たれる。
あー、好きだ。やっぱり好きだ。
感情が溢れてやまない。
この莫大な想いを察せられないように、会話を続けた。
「ありがとう。追いかけてきてくれて本当よかった。咲良のおかげで、またこうして一緒にいることができてるから、本当に感謝してる。」
俺の言葉を聞いても何かを考えているのか、咲良が少し黙る。
変なことを言ったかな、と不安になりながら次の言葉を待っていると、咲良が口を開いた。
「晴ちゃんはやっぱり凄いなぁ。なんだか凄く大人!昔から同年代の男子より落ち着いてたけど、なんか今はもう同い年とは思えない!」
その言葉にどきりとする。
うん、同い年ではないよ、なんて言える訳なくて。
誤魔化すように話を逸らした。
「サークルは俺が逆に咲良を追いかけたのかも。写真部のチラシを見たとき、小さい頃咲良がお父さんからもらったってカメラを下げてたのを思い出してさ、懐かしくなって興味湧いたっていうか。」
「え、そうなの!よく覚えてるね晴ちゃん!私と遊んだときのことなんて忘れてるかと思ってた!」
「忘れないよ。あの頃、誰と遊ぶのよりも、咲良と遊ぶのが一番楽しかったんだ。」
「私も、晴ちゃんと遊ぶ時間が本当に好きだった。なんだか凄く懐かしいね。」
咲良は微笑みながら目を細めて、思い出すかのように視線を遠くへ飛ばした。
そこから思い出話に華を咲かせていると、あっという間に目的地に到着した。
有意義で楽しい時間は本当にあっという間で。
自分の態度を変えるだけでこんなに変化した状況に、驚きが隠せなかった。
「2人、めちゃめちゃ楽しそうだったねー!」
目的地について聡太が前の座席の上から顔を出した。
お菓子の入ったビニール袋をこちらに広げて、わざとらしく不服そうな表情を作る。
「話尽きなさそうだったからお菓子渡せなかったー。こしあんも凪坊も寝てるしねー。」
聡太の言葉を聞いて通路を挟んで隣の座席を見ると、杏は座って腕組み状態で、凪は窓に頭を預けて口を開けて爆睡していた。
「杏!凪くん!ついたよ!」
咲良が腕を伸ばして杏の肩を軽く叩く。
杏はぱちっと目を開いて周りを見渡した。
「あー!めっちゃ寝た!」
杏は伸びをしながら立ち上がった。
凪は相変わらず爆睡している。
「こしあん2時間くらい寝てたよー。」
聡太が声をかけると、杏が"まじ?!"と携帯で時計を確認した。
「凪が速攻寝たのよ!バスが動いた瞬間よ!瞬間!俺酔うから寝るわ!とか言って。暇だから私も寝ちゃったわ!」
そう言ってバシッと凪の頭をはたくと、かくっと体勢を崩した凪が飛び起きた。
「うぇ!?なに、なになになに」
状況が読み込めていない凪は何かに怯えたように自分自身を抱きしめた。
その姿に思わず吹き出す。
「凪くん、おはよう!ついたよ。」
咲良が声をかけた。
すると覚醒したのか、凪がすくっと立ち上がって天井に思い切り頭をぶつけてまた座席に沈んだ。
最初のコメントを投稿しよう!