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second lap「免れない洗い物」
合宿場に着いてからは荷物を持ってそれぞれのロッジに行って、休む間もなくバーベキュー場へ向かった。
そこからは記憶にある通りバタバタで、わいわいバーベキューをしていたらあっという間に夕方になっていた。
ここで行われるジャンケンで負ければ後片付けをさせられることは分かっていたが、生憎じゃんけんで何を出したかまで覚えている記憶力はなかった。
案の定負けた俺はトングを洗いながらも、内心焦っていた。
なぜなら、過去のまま物事が動くのならば、凪が咲良にもうすぐ告白する時間になってしまうからだ。
ただ大抵のことが過去通りに物事が進む反面、自分の行動次第で若干未来が変わっていくことは行きのバスの中で体感した。
だからこそ、咲良と凪が仲良くなるはずだったバスでの時間が今回はなかった分、同じタイミングでは告白しないはずだ、と思うのだが、やはり心配は心配だった。
まだ洗い物は残っているが、水を止めて意を決して側でカメラをいじっている聡太に声をかけた。
「聡太、お願いがある。」
「ん?なにー?」
聡太はカメラをいじりながら顔を上げたが、思いの外真剣な表情をしている俺と目が合ったからか、動いていた手を止めた。
「洗い物、変わってほしい。ジャンケンで負けたのにごめん。でも俺今どうしても行かないといけないところがあって。」
真っ直ぐ聡太を見つめて言葉を紡ぐ。
聡太は視線を落として思案した後、壁にもたれていた体を起こした。
「咲良ちゃんのところ?」
ストレートに飛んできた言葉に息がぐっと詰まったが、ゆっくり頷いた。
それを見て聡太は表情を柔らかくする。
「やっぱりねー。じゃあ洗い物引き受ける代わりに質問。咲良ちゃんのこといつから好きなの?」
過去、同じこの場所で聞かれた質問が飛んできた。
あの時は聡太に見透かされていて驚いたことを思い出す。
今回は一度経験しているからか、落ち着いた気持ちで返答することができた。
「初めて出会った時からかな。その時は好きとかそういう感情はなかったかもしれないけど。でもあの頃からずっと他の女子とは違うなとは思ってたよ。まぁ、好きだって気がついたのは大学入ってからだけど。」
「え!大学入ってからってまじ?ってことは初恋?だからそんなに純情乙女みたいな反応してたんだねー!」
「純情乙女か。」
聡太の言葉に思わず自嘲するような薄笑いが出た。
「うん。好きな人来ました!まぶし!見れない!みたいなー?いや、でも今日は違う感じもするし、何か自分の中で吹っ切れたー?」
やはり観察眼が凄すぎる。
下手したらタイムスリップしていることも勘づかれているのでは、と思ってしまう程に。
「なんか今日、雰囲気ちがうよねー。人生2回目感出てるよ。」
ほら、やっぱり。
ほとんど正解を出された。
下手なことを返せなくて口を堅く結んで言葉を選んでいたら、聡太がまた話し始めた。
「でもまぁ、本当に好きなんだね、咲良ちゃんのこと。」
その言葉は胸にすっと溶けていく。
「おう。人生何回繰り返しても好きだな。」
「すっごい殺し文句!!いいよ!後は洗っといてやる!いってこーい!」
テンション高く声を荒げてにやにやしている聡太に勢いよく体を押される。
その勢いのまま振り返って歩みを進めた。
「行ってくるわ。ありがとな、聡太!」
「おう!がんばれー!」
軽く手を挙げると同じように返してくれた。
聡太の言葉に後押しされて勢いを増した気持ちを持ったまま、小走りでバーベキュー場を出た。
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