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second lap「交錯する関係」
バーベキュー場を出て咲良を探していると、真剣に写真を撮っている杏を見つけた。
声をかけようとしてぐっと思い留まる。
過去では、ここで声をかけて杏に告白されたことを思い出したからだ。
振ることなってしまうのならば、そもそも告白されることを避けるべきなのかもしれない。
そう思い、杏に気がつかれないようにそっと歩みを進めた。
過去の記憶通りならば、咲良は凪と川へいるはずだ。
居て欲しい反面、2人では居て欲しくない気持ちもあって、複雑な思いをかき消すように足を動かしていく。
段々川が見えてきて、同時に人影が見えた。
いた。
やはり思っていた通り、いや過去の出来事通りと言った方が正しいだろう、そこには咲良と凪がいた。
2人は一つのカメラを覗き込みながら楽しそうに話をしている。
過去に2人を見かけた時とは違ったシチュエーションに安堵と不安を覚える。
一目散にここにたどり着いたからか、それともバスでの過去を変えたからか、まだ咲良は凪に告白されていないだろう雰囲気を感じ取った一方で、やはり2人は仲睦まじく見えて。
一気に心臓の音がうるさくなって、その音をかき消すように叫んだ。
「咲良!!」
自分でも驚くほどの大声が飛ぶ。
まだ距離がある2人が驚いたようにこちらを振り向いた。
段々スピードが上がっていき、小走りで近づく。
「晴ちゃんどうしたの?何かあった?!」
「おーう晴、どした?」
2人に向き合う形で足を止めると、咲良は焦ったように、凪は呆気に取られている様子で訪ねてくる。
あんな大声、数年ぶりに出したからか、少し喉がじんじんしていて熱い。
息を軽く整えても、心臓の音はうるさくて頭にがんがんと響いていた。
合流したものの、それからのことを特に考えていなかったことに今更気がつく。
一言目に何を言うべきか、ごちゃごちゃ頭で考えてしまいそうになる。
でも、今ここに来た理由は一つしかない。
もう頭で考えるのはやめよう。
自分に言い聞かせて咲良に向き合う。
ずっと言いたかった言葉、言えなかった言葉、たくさんあるけれど一つの言葉に気持ちを込めて伝えよう。
「好きだ」
咲良はゆっくりと大きく、これでもかと言うほど目を見開いた。
24年間蓄積していた想いを初めて吐き出した。
一度言葉にするとどんどん溢れてきて。
今まで言えなかったことが嘘みたいに感情が言葉になっていく。
「咲良のことが、昔からずっと好きだ。これからもずっとそばに居たい。でも幼なじみとしてじゃなくて、恋人として咲良と一緒にいたい。」
いざ吐き出してみるとこんなにも簡単なことだったのか、と思った。
何で伝えることを躊躇っていたのか、今ではもう分からなくなる。
やっと今、邪魔するものは自分のプライドだけだったことに気がつけた。
そう思う反面、心臓の音はまだまだうるさく体全体に響き渡っていた。
鼓動に合わせて視界が揺れるように感じる。
咲良の表情は依然変わらず、時が止まったかのようだった。
そんな彼女を願うような気持ちで見つめる。
川の水の音だけが響いて、時間を増すごとに空気に重さが加わっているかのように体にのしかかってきた。
耐えられない。
そう思った瞬間、その空気を破ったのは、凪だった。
「あ、なんか俺お邪魔だな!ちょっとあのー、あそこ!あそこ行ってくるわ!」
明らかに動揺した様子で手足をじたばたさせて苦笑いを浮かべている。
いつも笑顔溢れる彼の引きつった表情を見て初めて冷静さを取り戻した。
凪の存在を無視するような行動を取ってしまったことに罪悪感を覚え口を開こうとした時、咲良によって遮られた。
「まって!!!」
咲良が縋り付くように凪の腕を掴んだ。
今度は俺が目を見開く番だった。
「いや、あの、その、ちょっとまって、ごめん」
凪の腕を掴んだまま咲良は俯く。
いきなり動きを止められた凪は少しつんのめったが、すぐに体勢を整えて体を咲良の方に向けた。
俯いて顔をあげない咲良を困ったように見つめている。
ついにこの空気に耐えられなくなったのは、今度こそ自分自身だった。
「咲良、返事はすぐじゃなくていいから。でも考えて欲しい。いきなり驚かせるようなこと言ってごめん。」
言い終わるまで全く目が合わなかった咲良に頭を軽く下げて、2人をもう見ないようにその場を後にした。
もっと冷静になっていれば、もう少し相手に寄り添った行動を取れたのだろうか。
いや、そんな綺麗事じゃない。
本当は自分の我慢の限界で2人きりにさせてしまったことへの後悔の念が湧き出てやまなかった。
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