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second lap「話の行方」
あの後、一目散にロッジに戻った。
冷静になればなるほど色々な感情に押しつぶされそうになる。
さっきからずっと咲良の困った顔が頭にフラッシュバックする。
告白すればどうにかなると思っていた自分を殴りたい。
あんなに困らせるとは思わなかった。
でも何よりも、咲良が凪を頼ったことが一番辛かった。
あそこにたまたま凪がいたからじゃない。
凪だから頼った、凪だから引き留めたんだ。
それが分かってしまうのが嫌で、机に突っ伏して動けない。
そんなことをしている内に、だんだん外が暗くなってきたが電気をつける気にもなれなくて、あっという間に室内は真っ暗になった。
「うわぁ!!!びっくりしたー!!!」
ロッジに入ってきた聡太が電気をつけて叫んだ。
「あー、わるい。」
顔を上げずにてきとうに謝る。
「え、なに、聞いていい感じですか?」
謎の敬語で恐る恐る聞かれる。
吐き出した方が楽になるだろうか。
もう隠す必要もないしいいか。
そうだ、俺はタイムスリップ時に羞恥心とかちっぽけなプライドは置いてきたんだ。
なんて、やけくそになりながら口を開いた。
「咲良に告白した。」
「おーう、それで?え、あ、まさかふられたーとか?」
「いや、ふられてはない。」
「なんだ、ふられてないんじゃーん!じゃあなんでそんな"ちーん"ってなってんのー?」
恐る恐るなような、それでもいつもよりかは高めのテンションで切り返された。
聡太からの質問に答えようとして、また思い出して落ち込む。
「咲良めちゃめちゃ困ってた。そんで凪に助け求めてた。」
「おーう、それは。中々食らうねー。っていうか、凪坊がいるところで告白したの?!」
「おう。」
「それでかー。」
聡太の言葉に視線をやると、何かを思い出したのか一人で頷いている。
やっと顔を上げた俺の視線に気がついて聡太が口を開く。
「いや、凪坊なんか元気なくてさー。ずっと上の空というか、から元気というか。」
悪いことをしたな、と思う。
とりあえず咲良の反応に落ち込んでいたが、本来ならあそこは凪が告白するところだった訳で。
そこを横取りされた挙げ句、目の前で告白現場を見せられた凪の気持ちを考えたら一気に申し訳なくなってきた。
「あとで謝っておくよ。」
「そうだねー。まぁ気分乗らないとは思うけどさー、もうすぐ夕食だからいこーよ。」
本当ならこのままここで落ち込んでいたい気分だったが、そこは無駄に歳を重ねていない。
動かない体に鞭打って重たい腰をあげた。
ロッジを出て少し歩いてレストランに入ると、もう既に何人か席についていてその中に咲良を見つけた。
さすがに少し離れた席に座ろうかと思った時、咲良の隣に座っていた杏から声をかけられた。
「晴!聡太!ここ空いてるわよ!」
咲良が声に反応してこちらを見ると、あからさまに目を泳がせて逸らされた。
こんな反応をされたことが初めてで、ばきばきの心が更に折れそうになる。
聡太は気を遣って俺の様子を伺ったが、もうどうにでもなれという気持ちで呼ばれた方に向かった。
咲良の目の前の席に腰掛ける。
聡太はその隣、杏の目の前に腰掛けた。
「晴、どこ行ってたの?私ちょっと探してたんだけど。」
この場で唯一事情を知らない杏のテンションは非常に有難かった。
「あー、ちょっとロッジで休んでた。」
「それなら教えてくれたらよかったのに!結構連絡したのよ?」
「え、ごめん、携帯見てなかった。」
そう言われてずっと忘れていた携帯の存在を思い出す。
ポケットから取り出すと中々の数のメッセージが溜まっていた。
スクロールしていくと咲良からメッセージが来ていることに気づいた。
一瞬躊躇って画面をタップする。
"今夜、時間があったら話したいです"
咲良に視線をやると伺うように見ていた視線と合う。
数秒見つめ合ってまた携帯に視線を戻す。
すぐに手を動かして返事を送った。
"時間つくるよ。話そう"
話したい、という表現にそれがプラスの話なのかマイナスの話なのかが予想できなくてもどかしい。
どちらにしても今まで通りとはいかなくなる変化に耐えられるのだろうか。
不思議と考えていなかった恐怖が湧き上がってくる。
「ちょっと晴?」
携帯を握りしめたまま瞑想していたところを杏に引き戻された。
はっとして顔を上げると訝しげにこちらを見ている彼女と目が合う。
「あーわるい。すげーメッセージ溜まってた。」
誤魔化すように携帯をポケットにしまう。
うるさい心臓を無視し続けて打った相槌はどこか他人事のように思えるほど、意識は完全にメッセージの一文に持っていかれていた。
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