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牧村咲良(まきむらさくら)
俺の幼なじみだ。
初めて出会ったのは、咲良が引越してきた4歳の時。
咲良と目があった瞬間、幼い自分に芽生えた感情。
それが何なのか、その時は分からなかったけど、とにかくこの子とずっと一緒にいたいと思ったことを覚えている。
咲良とは幼稚園が違ったけれど、家が近かったこともあってよく一緒に遊んだ。
小学校では同じクラスになったり離れたりしたが、6年間登校班が一緒だったこともあり、男女にしては相当仲が良かったと思う。
高学年になってからは照れもあって学校で遊ぶことはなかったけど、学校から帰ってきたらよくお互いの家で2人で遊んだ。
友達の誰と一緒に遊ぶよりも、咲良といる時が一番楽しくて安心した。
そのまま地元の中学に進学。
家が近いと言うことを除けば、同じ状況の友達は他にもたくさんいた。
それでも自分の中では咲良だけが特別な存在だった。
けれど、思春期というのか、この時期から2人では遊ばなくなった。
咲良ともっと一緒にいたいと思う反面、周りの目、男女という壁がもどかしくて、こんなにも咲良と接することが難しくなったことが嫌で仕方がなかった。
進路の話をする機会もなく、迎えた高校。
さすがに高校では離れるだろうな、と漠然と思っていたが、まさかの同じ高校に入学することを母さんから聞いた時、飛び上がるくらい嬉しかった。
正直、運命だ、とも思った。
嬉しくて嬉しくてたまらなくて、今すぐ咲良に会いに行きたかった。
それでもまぁ、同じ中学から合格した人は多くはないものの何人かはいるし、と自分を落ち着かせて、気持ちを押し殺した。
今思えば、この時に素直な気持ちを打ち明けていたらよかったのかもしれない。
思春期と過度の周りの目を気にした自分の行動のせいか、高校では咲良と俺が幼なじみということを知っている人はあまりいなかった。
それも含めてクラスが違ったり部活があったり、なんやかんやで機会がなくほとんど関わらないまま高校生活が終わってしまった。
そして咲良の受験先ももちろん知らずに迎えた大学受験。
合格発表の張り出しを見に行き、無事に合格を確認して電車で帰っている時、同じ車両で咲良を見つけた。
まさか、と思った。
それと同時に胸が高鳴って合格発表以上にどきどきしたことを覚えている。
最寄り駅で降りて彼女を追った。
声をかけようと思った瞬間、咲良が振り返った。
「晴ちゃん、また大学もよろしくね!」
満面の笑みでピースサインを向けられた時、何故か涙が出そうになった。
今思えば、また一緒にいられるという嬉しさと安堵が込み上げてきたのかもしれない。
「おう。」
それが精一杯だった。
まだ何か言いたげな彼女に構う余裕もなく、涙目がバレないように少し俯いて早歩きで彼女の横を通り抜ける。
いつからだろう、咲良と上手く関われなくなってしまったのは。
心と裏腹に、彼女とだけ上手く話せない、自分が自分でいられないようなふわふわした感覚が落ち着かなくて、知らず知らずに避けるようになってしまった。
早足で去った後、咲良はついてきていたのか、もう距離が離れていたのかも分からないくらい無我夢中で歩き続けた。
帰宅した途端に電話で合格したことを伝えていた家族が玄関で出迎えてくれたが、どう返したかはあまり覚えていない。
そんなこんなで大学も同じになったが、学部も違った為、それから会うこともなくぬるっと大学生活が始まった。
4月の後半、ちらほらと友人が出来てきた頃、そろそろサークルにでも入ろうかという話になった。
「晴は何か興味あるサークルないー?」
食堂の机に突っ伏した姿勢の声の主、鈴本聡太(すずもとそうた)は同じ学部の出席番号が前後で、よく一緒に行動するようになった。
てきとうでノリが良くて付き合いやすい。
携帯から視線を上げるが、だらけまくっている聡太とは目が合わない。
「うーん、サークルねぇ。」
正直あまり興味がなかった。
サークルに行く時間もバイトした方がお金も稼げるしなぁとか思ってしまうタイプで。
「聡太は?勧誘されて気になるとこあったか?」
逆に質問されると思ってなかったのか、だらけ姿勢のまま顔だけあげた聡太は、何かを思い出したのか、"あっ"というとカバンをごそごそ探り始めた。
「ほい、これ。唯一もらったんだったー。」
差し出されたのは若干ぐしゃってるチラシ。
受け取って広げてみると大きな文字が目に入った。
「写真部?」
「そうそう、なんか大学生活楽しもうぜー!みたいな勧誘が多かった中で、落ち着いてる感じがしたからもらっといたー。」
聡太の話を聞きながらチラシに目を向ける。
「カメラ持って色んなところ行って写真撮るんだってさー。最近は携帯でも綺麗に撮れるからカメラ持ってなくても大丈夫だって。」
カメラか。
お父さんからもらったと言って嬉しそうに首からカメラを下げていた咲良のことを思い出した。
小学生の時の話だけど。
「写真部ありだな。」
まさかの返事だったのか、聡太は目を丸くしてこっちを見ている。
「行ってみようぜ、写真部」
さっそくその日、午後の授業が終わったその足で聡太と写真部に顔を出した。
部室にいた先輩方に大歓迎され、あっという間にその日の夜に歓迎会が開かれるお店まで連れて行かれた。
待ち合わせ場所のお店の外には30人ほどの学生がいて、思いの外部員がいることに驚いた。
「晴ちゃん!」
声がした先には、咲良がいた。
「え、咲良?」
反射的に答えると、咲良はにこにこしながら側に駆け寄ってきた。
「晴ちゃんもしかして写真部?私もこの間写真部に入部してね、晴ちゃんが部長さんたちと一緒に来るのが見えてほんと驚いた!」
合格発表以来に見た彼女は、たった1.2ヶ月会っていなかっただけなのにもう長らくあっていなかった気がするくらい大人びて感じた。
髪の毛を染めたからか、化粧をしているからか、明らかに綺麗になっていて。
でもやっぱり咲良は咲良だ。
今まで必死に向き合わないようにしていた感情がどっと押し寄せる。
ずっと特別で、大事で、でもその想いに名前をつけてしまったら、とずっと躊躇っていた。
でももう、
俺は咲良のことが好きだ。
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