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first lap「人任せな分岐点」
電車のアナウンスで我に帰る。
次が今日の合宿の集合場所だ。
昔のことを思い出していたらあっという間についてしまった。
電車を降りるとかんかん照りの太陽が眩しい。
最高の合宿日和だ。
写真部に入って4ヶ月が経ったが、中々いいサークルを選んだと我ながら思う。
まぁ半分は聡太のおかげだが。
写真部の人数は大体30人くらいで、穏やかで個性が溢れているメンバーが揃っている。
先輩曰く、今年は豊作だそうだ。
普段はみんなでというよりも個人で好きに写真を撮っていて、月に1.2回は休日に集まって少し遠出していいスポットで撮影をしたりする。
部室も設けられていて、自分が撮った写真を見せあったり、新しく買ったカメラを自慢しあったり、トランプしたりUNOしたり。
カメラも知れば知るほど面白いし、何よりこののほほんとした空気感がとても居心地が良かった。
そして年に2回、長期休みには山にロッジを借りてキャンプをする合宿がある。
今日は入部してはじめての合宿の日だ。
集合場所へと歩く。
カメラを首からぶら下げた集団が見えた。
何人かがこちらに気がついて手を振ってくれている。
手を振り返しながら少し歩くスピードを早めると後ろから声をかけられた。
「晴!おはよう!」
振り向いて少し視線をあげると、にこにこした顔と目が合う。
「おう、八束(やつか)。おはよ。」
八束凪(やつかなぎ)は写真部で知り合った友人だ。
いつもにこにこしていて人が良く、男女関係なくみんなから好かれている。
若干、いじられている。
「今日あちーな!俺もう汗だくだわ!」
八束はどこから出したのかセンスで仰ぎながら話しかけてくる。
今日は8月の半ば。軽く30度は超えている。
「晴はなんでそんな涼しそうな顔してんの!イケメンは汗もかかないのか!」
「なんだそれ。」
「ていうかいい加減下の名前で呼んでくんない?!なんか距離感あってやだわー!はい!な・ぎ!せーの?」
「うるさい八束」
2人でてきとうな会話をしながら集合場所に向かう。
八束は終始ぶーぶー言っていたが。
「はい、凪ちこくー!」
「なんで俺だけ?!って遅刻してないし!一番についたから駅でトイレ行ってたんだし!」
早速いじられている八束を見ながら笑っていると、同じく笑っている咲良と目があった。
にこっと笑いかけてくれた咲良に口を固く結んで頷きで返す。
たったそれだけのやり取りで胸が高まる。
「おはよー晴。バスどこ座る?」
ぼーっとしていたところに声をかけられてはっとすると、先に着いていたのであろう聡太がいた。
「おはよ。俺一番後ろじゃなかったらどこでもいいな。」
「わかるわー。じゃあてきとうに前後で座ろうぜー。」
聡太は手元のビニール袋を開けてこちらに向けてきた。
「いっぱい買っといたから。」
にやっと聞こえるような表情に思わず笑ってしまう。
「おう、さんきゅ。」
「よし、全員揃ったのでバス乗りましょうー!毎年恒例、行きは男子から好きな席に座ってください!帰りは女子からねー!」
そんなやり取りをしていると部長から声がかかった。
その声とともに男子がぞろぞろとバスに入っていく。
写真部では毎年合宿の行き帰りのバスでのルールがあるらしい。
それはあまり話したことのない部員同士の交流という名目だが、本当は男女で座りたかっただけの先輩が作ったのだろう。
行きはまず男子が好きなところに座る。
本当にどこでもいいらしいが、隣は女子がいいから男子2人で座る奴はまぁいない。
そして乗ってきた順番で後ろから詰めて女子が座っていく。
これでランダムに男女ペアができる。
帰りはこれの逆が行われる。
そんなこんなで俺と聡太もバスに乗り込んだ。
あまり後ろだと酔うから前の方に座る。
聡太は俺の一つ前の席に座った。
「これドキドキするな!考えた人天才!」
通路を挟んで横に座っている八束が嬉しそうににこにこしていた。
「凪坊はかわいいやつだなー。ほれ、お菓子をあげよう。」
「まっじ!さんきゅー!」
聡太が身を乗り出してお菓子を差し出す。
流れで俺にも差し出してくれたのでもらっておくことにした。
「晴は咲良ちゃんと隣になれたらいいねー。」
「え?」
聡太は言い逃げかのようにすぐに座った。
ちょっと待て。どういう意味か聞きたいけど聞きたくない。
「入るよー?」
ぐるぐると考えている内に、4回生の先輩を筆頭にぞろぞろと女子が入ってきた。
まるでお見合いかのように、よろしくお願いしますという声とともに女子が座っていく。
聡太に言われたせいなのか、少しドキドキしている自分がいた。
続々と席が埋まってきているのが声の感じで分かる。
入り口に咲良が入ってきた。
目が合う。
気がついたら自分の後ろの列まで埋まっていた。
咲良と隣になる。そう思った途端に心臓の鼓動が早くなる。
「咲良どっち座るの?」
後ろの女子が咲良に話しかける。
「あー、どうしようかな。」
「じゃあ、私こっち座っていい?凪とはもう飽きるほど喋ってるし!」
間髪入れずにその女子は俺の隣に座った。
自分の隣に来てくれなかった、という自分勝手な残念な気持ちがこみ上げてくる。
でもどこかで少し安堵もしていた。
「晴と喋りたかったんだー!隣よろしく!」
「おう、よろしくな。」
俺の隣に座った女子、古瀬杏(こせあん)は学年も学部も同じでバチバチメイクのギャルだ。
あまり写真部にはいないキャラに先輩方は初めざわついていたが、彼女が自分の一眼レフカメラでこれまで撮ったという写真の数々はとても綺麗で、一気に部の中心的存在となった。
普段からよく話すし、話しやすい杏と隣なら退屈しなさそうだ。
「凪くん、隣座らせてもらうね。」
「あ、よろしくよろしく!!狭くない?ごめん、俺無駄に体でかいから!」
咲良は八束の隣に座った。
2人のやり取りが聞こえる。
よりにもよって八束か。
そう思うのには訳があって。
咲良は誰とでも分け隔てなく話せて、コミュニケーション能力が非常に高いと思う。
でも異性とはきっちり一定の距離感を作るタイプで、無駄にボディタッチをしたり自分から距離を詰めて行ったりはしない。
そんな咲良が八束に対してだけは、あまり壁を作らずに接している気がして。
まぁ、部内一接しやすい彼だからだろう、と今のところ自分の中ではそう結論づけて納得しているところだ。
「はい、バス動きまーす!」
物思いにふけっていると部長の声が響く。
そしてバスが動き出した。
運命の合宿が始まる。
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