first lap「免れない追求」

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first lap「免れない追求」

3時間近くバスに揺られて目的地に着いた。 杏が喋り続けているのに相槌を打ちながら、たまに座席の間からすっと出てくるお菓子を食べていたらあっという間だった。 「あーー!ついたねー!楽しかったわー!」 「俺もあっという間だったわ。」 杏は伸びをしながら立ち上がる。 「こしあんマシンガントークだったねー。」 前の席から聡太が顔を出した。 こしあんとは聡太がつけた杏のニックネームだ。 「聡太のお菓子のタイミング完璧だったよー!ナイスサポート!」 「お任せくださいなー。」 グッドポーズをし合う2人を傍目に、杏が立ったことで見えやすくなった向こう側に目をやる。 3時間ずっと声の大きい八束の笑い声が聞こえていたから正直気になっていた。 八束と咲良はまだ話が盛り上がっているのか、降りようとはせず話し続けていた。 「お二人さん盛り上がってたじゃない?」 見事に杏が代弁してくれた。 「そうなんだよー!咲良ちゃん面白くてさ!」 「え、私?!凪ちゃんでしょ!」 2人はテンション高く言い合っている。 ていうか呼び方、この数時間で変わってるし。 「え、なになに!バカップルか!」 杏がツッコミを入れる。 二人の、いや咲良の反応を見るのが怖い。 でも視線は咲良から逸らさなかった。 が、ぞろぞろと後ろから降りる人たちがやってきて通路が塞がれてしまった。 そのままもやっとした気持ちを抱えて、流れでバスを降りた。 そこからはバタバタだったから余計なことを考えずに済んだ。 着いてからは荷物を持ってそれぞれのロッジに行って、休む間もなくバーベキュー場へ。 わいわいバーベキューをしていたらあっという間に夕方になっていた。 「後片付け終わったらもう夕飯だなー。一日早いわー。」 「ほんとに。楽しいと時間がすぎるのはあっという間だよな。」 ジャンケンで負けた俺はトングを洗いながら、勝った聡太はカメラをいじりながら会話をしている。 片付けが終わったメンバーは各々カメラを持って風景を撮ったり、雑談したりしていた。 たまたまここには俺たち2人だけで、水の音がよく響く。 「ねー。咲良ちゃんのこといつから好きなの?」 唐突な質問に息を呑む。 驚いて聡太の方に顔を向けると目が合った。 「晴さ、咲良ちゃんと話す時だけ表情固くなるんだよねー。気づいちゃった。」 にやりと不適な笑みを浮かべている。 聡太には咲良と知り合いかと聞かれた時に、幼なじみだって伝えただけのはずだ。 いつ気がついた? だめだ、あー、隠せないわ。 息を吐いて腹を括る。 「いつからだろうな。物心ついた時からかもな。気がついたのはこの間だけど。」 ぷっと吹き出す音が聞こえるけど目は向けない。 俺はトングを洗うことに集中するんだ。 「この間ってまじ?ってことは初恋?だからそんなに純情乙女みたいな反応してるんだねー。」 「純情乙女ってなんだよ。」 「好きな人来ました!まぶし!見れない!みたいなー?」 あー、恥ずかしい。 そんな風に思われていたとは。 「普段が卒なくこなしてるだけにねー。」 「フォローになってねーよ。」 「本当に好きなんだね、咲良ちゃんのこと。」 手を止める。 トングは綺麗になった。ぴかぴかだ。 止まった俺を不思議に思ったのか聡太の視線を感じる。 「好きなんだ、もうずっとどうしようもなく。純情乙女ってあってるよ、ほんとに。咲良のことを考えたらそれ以外頭回らなくなるし、咲良と離れる人生が考えられない。何も努力した訳じゃなくただの幼なじみで運良くずっと一緒だっただけなのにな。自分でつなぎ止める勇気もずっと出ない。女々しいよな。」 一息に吐き出した。 言葉にしたら想いが溢れて。 「女々しくない、真剣なんだろそれだけ。」 カメラをいじっている手を止めて、いつもだらけている聡太がまっすぐ立っていた。 「運も実力の内っていうじゃん。それにこれからは運だけじゃなく本当の意味で離れることのない選択をすればいいんじゃないかな。ほら、今日は合宿だしね。」 肩をたたかれる。 初めて誰かに打ち明けた。 誰かに打ち明けてよりその想いは鮮明になる。 かけてもらった言葉に背中を押された。 「俺、行ってくるわ。ありがとな、聡太。」 「おう、がんばれー!なんか青春だー。」 いつものようにへなへな姿勢を崩して壁にもたれた聡太にトングを預け、咲良を探すためにバーベキュー場を出た。
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