first lap「交錯する想い」

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first lap「交錯する想い」

バーベキュー場を出て咲良を探していると、真剣に写真を撮っている杏を見つけた。 後ろから声をかける。 「杏!」 「お、晴!片付け終わった?」 杏はカメラから顔を離して振り返り、こちらに笑顔を向けた。 「おう、なんとかな。杏はいい写真撮れたか?」 杏はよくぞ聞いてくれました!とでも言わんばかりの笑みを浮かべて、首にかけていたストラップを外して背面液晶を見せてくれた。 「おおー!相変わらずうまいな。綺麗だ。」 そこに映し出されたのは風景写真。 ポストカードに使われているような、思わず声が出るほどに綺麗で目を惹かれた。 「そんなに褒められたら照れるわ!」 そう言いながら次々と写真をスクロールしていく。 自然の写真、部員達の写真。 楽しい様子が伝わるような写真の数々に笑みが溢れる。 するとある写真に目を奪われた。 「あ、これこれ!めっちゃいい写真じゃない?凪と咲良!」 そこには自然に笑い合う2人の姿が映し出されていた。 きっと2人のことを知らない人が見ても、いい写真だと思うような、そんな幸せに満ち溢れている写真。 「なーんか撮っちゃうんだよね、あの2人。笑顔が似てるというか、雰囲気が似てるというか。」 「いい写真だな。」 それ以上聞きたくなくて思わず喉から言葉を絞り出す。 杏がこちらを見ているのが分かって思わず顔を背ける。 夕焼け空が綺麗に見えた。 パシャッ カメラの音に振り向く。 杏のカメラのレンズがこちらに向いていた。 「晴のこと撮りたかったんだよね、ずっと。」 ゆっくりとカメラが下がる。 杏の顔が見えた。 目が合う。 沈黙が続く。 「私、晴のこと好き。」 今から咲良に言おうと、伝えようと考えていた言葉だ。 告白を受けているのに、どこか他人事かのようにそう思ってしまう。 でも目の前にいる杏はいつもと違って至って真剣な眼差しをしていた。 数秒見つめ合いが続いた。 これ以上は見られなくなり、すっと視線を落とす。 ぎゅっと握りしめられた杏の拳を見ながら、ようやく口を開いた。 「ごめん。俺、好きな人がいる。」 杏の手に更に力が込められたのが分かった。 視線を顔に戻すと、杏は困ったような笑顔を浮かべていた。 「分かってたよ、なんとなく。晴のこと見てたもん。」 「そっか、ごめん。」 「あっちにいると思う。急いだ方がいいかも。多分、凪といる。」 その言葉に一気に頭が冷えた。 「ありがとう。行ってくる。」 杏は口だけで笑って、手を振ってくれた。 無理をしているのが分かる。 だからこそ、ここをすぐ離れた方が良いと思い、背中を向けた。 色んな想いが駆け巡って体が熱い。 でも今はなによりも 嫌な予感がするんだ。 ********************* 杏に教えてもらった方向に進むと川が見えた。 まだ遠いけど人影が見える。 座っている後ろ姿ですぐに咲良と八束だと分かった。 足を早める。胸の鼓動が響いてうるさい。 あと少し、そう思った時、八束が立ち上がった。 思わず足を止めてしまう。 何を言っているかは聞こえない、分からない。 でも、いつもの笑顔じゃない真剣な表情から、分かってしまう。 咲良も立ち上がる。 笑って何かを言っている。 今まで真剣だった八束がヘラっと笑った。 そして 咲良を抱きしめた。
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