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12 years old
布団から出たくない衝動に10分がかりで勝利した佐々木美優は、ゆっくりとベッドから出た。
部屋の中の冷たい空気に嫌な予感を覚えながら、美優はライムグリーンのカーテンを開けた。そして、窓の向こうの景色を見て大きくため息をついた。
「また雪、積もってるし……」
前日より10センチ以上積もったであろう庭の景色を見て、美優はもう一度ベッドに戻りたくなった。どう見ても凍える予感しかしない外に行く気が全く起きなかった。
「美優、いつまで寝てるの! 遅刻するわよ」
母の声に「はーい」と応えつつ、美優はため息をつく。
なぜこんな日にも小学校はあるのか、
そんなことを考えながら、美優は部屋のドアを開けた。一階から流れてくる暖かい空気とトーストの匂いに引かれながら、美優はゆっくりと階段を降りた。
リビングでは、母が用意した朝食が既にテーブルに並んでいた。父の弁当を作る後姿の母に
「おはよ」
と美優は声をかけた。
「おはよう。早く顔洗ってゴハンを食べちゃいなさい」
「はーい」
洗面所に向かおうとしたとき、テレビから流れるニュースが目に入った。リビングで誰も観ていないのにつきっぱなしのテレビは朝のBGMのようなもので、普段なら気にも止めないが、この日は美優の目と耳がそのニュースを捕らえた。
『こちら東京新宿駅の様子です。明け方から降る雪は3センチの積雪を記録しており、交通機関が大きく乱れています』
たった3センチで交通機関が乱れる。東京ならば3センチ降れば小学校が休校になると聞いたことのある美優は「雪国だけ不公平だ」と呟いた。
なんで雪国に生まれたんだろう。
大きくなったら雪の降らない町で暮らしたい。
『はい、こちらは原宿竹下通りです。昨日から始まったアイドルグループ・MATERIAL-GIRLSとコラボ企画で一面が――』
あんな華やかな街で暮らしたい。大きくなったらえったいに東京に行くんだ。
そんなことを考えながら美優は、洗面所に向かった。
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