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彼との出会い。恋心の始まり。
5月17日 天気:晴れ
今日は近代日本文化の講義だった。本で知った知識を、さらに深掘りしていく感じが面白い。
でも、私としたことが…。ボールペンの替え芯を忘れた。
やだやだ、お気に入りのボールペンで板書したいのに!
そう思っていら、隣の男の子が突然ボールペンを渡してきた。
何も言わないし、こっちを見てもくれないで。
でも、有難いので受け取った。
そしたらちょっとだけ顔を見て、頷いてきた。なんだか不思議な人。
無愛想な感じだし。でもすごく綺麗な横顔をしていた。
このボールペン、ざりざりとした書き味が好きではないけれど、黙っておこう。
5月24日 天気:曇り
先週のボールペンを返さなきゃ、と思って新しいの買ってきた。
でも彼の隣には、別の人がもう座ってた。
しょうがないから斜め後ろの席に座る。
講義中、ふと彼の方を見ると驚いた。ノートが板書以外のメモでいっぱい!
どういうこと? 気になって観察をしてみる。
そしたら教授がぽろっと言ったことや、疑問に思ったことをノートに書き加えている。
その走り書きを見て、考え事をしたり。何か閃いて書き足したり。すごい。そんなに歴史が好きなの?
何よりその考え事をしている真剣な横顔が、やっぱり綺麗だな……。
驚いていたら、講義はもう終わっていた。また、返しそびれてしまった。
6月3日 天気:曇りのち雨
今日はなんだか、疲れた。午後から雨なのに傘を忘れちゃった。
まだボールペンは返せていない。
講義が終わるといつもすぐ居なくなっちゃう。
何処に行ってるのか分からないけど。
友達に聞いても「そんな子いた?」なんて言われちゃった。
もう返さなくてもいいか、なんて思っちゃう。
でも、彼の横顔とノートを間近で見てみたい気もする。
仲良くなったら、見せてくれるのかな。
6月10日 天気:晴れ
ようやく!ボールペンを返すことができた!
昼休みも学食に居ないのはおかしいなって、キャンパスを探し回った甲斐があった。
でも、ボールペンは要らないって言われてしまった。
しかも貸したことすら忘れてた。ムカつく!
私1ヶ月近く、気にしていたのに。だから突き返してあげた。
少しでも彼と話してみたくて、自己紹介をしたのにあしらわれてしまった。
『海野 拓望』って言うんだって。名前だけ教えてくれた。
「陸からすれば、海は行き止まりだな。」
それだけ言って、また何処かへ行っちゃった。
何なんだろう、本当に変な人。
6月13日 天気:晴れ
海野君が図書館にいたので思わず声をかけてみた。
距離を縮めたくて名前で呼ぶと、露骨に嫌そうな顔された。
その時、彼は明治時代の朝日新聞を読んでいて、なんと三四郎の初回が載っているやつ!
興奮して大きな声を出したら、彼に怒られてしまった。
でも慌てている私を見て、初めて笑ってくれた。
美来って呼んでくれた。
「夏目漱石が好きなのか?」そのワードにつられて、思いっきり文学史ヲタクぶりを発揮してしまった。
気づいたら、拓望君は呆然としてた。
やっちゃった。私はいつもそう。好きな事を語りすぎて、相手はドン引き。
でもその瞬間、拓海君は「俺、知りたいんだ。美来のこと。」
人が変わった様に食らいついてきた。
今度は私が呆然とした。聞けば聞くほど、
彼は興味のない事に無頓着な人だった。
友達は殆どいない、歴史が好きすぎる、何より今まで恋をしたことがない……。
「これが恋なのか、分からない。」そんなのこっちが聞きたいよ!
でも私はボールペンを借りた瞬間、多分拓望君の事が好きになっちゃったと思う。
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