傀儡3

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傀儡3

 それからは誰とも出会わなかった。ほどなくして折り返そうと思ったところで、喉を潤したくなりスーパーに寄ることにした。10年ほど前にできた地域密着型の小さなスーパーだ。手指のアルコール消毒を済ませて中に入ろうとすると、外出自粛にもかかわらず人がごった返していた。中には5人家族の一行(いっこう)までいる。  許せない。 「一家総出でスーパーに買い物? 信じられないんですけど」  Twitterに書き込むと同時に、私は直接注意していた。そうだ、きちんと本人たちにわからせないと意味がないのだ。  スーパーだけじゃない。Twitterにも、けしからんヤツがたくさんいる。  許せない。 「今、歓迎パーティー開くとか頭おかしいでしょ。三密って言葉、知らないんですか?」  許せない。 「また不倫ですか。人として終わってます」  許せない。どいつもこいつも。  間違いを見つけたら罰しなければいけない。私は正しい。「いいね」の数がそれを物語っている。ツイートして1時間も経たないうちに100以上の「いいね」がついた。気分がいい。  1時間のウォーキングを終えて清々しい気持ちで家に帰ると、子供たちがちょうど起きてきた頃だった。長女が入学したばかりの高校も、次女の中学校も休校だ。  緊急事態宣言が出てから家族と過ごす時間は増えたが、何を話していいのかわからない。娘たちが二人とも思春期ということもあり、なかなか会話の糸口がつかめないのだ。特に、中学3年生の次女はロクに口も聞いてくれない。そういえば、妻とゆっくり話したのはいつだったろうか。  どこかに間違いはないだろうか。間違いさえあれば注意できる。そうすれば、家族からの称賛も尊敬ももっともっと得られるのに……。
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