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スニッカーズのターメリックかけ
妻こと汐海は甘い。
いや、味覚的な表現ではなく、なんというか、雰囲気が甘いのだ。
「……剛史くん」
「……起きてたのか」
「……ん」
結婚して2か月。出会ったのは6年前、大学生の頃で、汐海は当時からあまり変わっていない。見た目も性格も、大学生のまま時間だけが飛んだように。そんなことを本人に言えば拗ねて口を効いてくれなくなるかもしれないが、事実そうなのだ。知らなかったところはあれど、想定していた範疇を超えるようなことはない。
そう、思っていた。
俺はいつものように明日の仕事の準備をしてから布団に入った。すると汐海の手が俺の肩から滑り落ち、手を取る。そして細い指先を絡め、基節骨だけに力を入れ、きゅっきゅっとしてくる。
「……んふふ」
力加減が変わらず、何度も何度もしてくる。まるで買ったばかりの携帯を触るような手つきで手の甲を指の腹で撫でてくる。そうして時間はゆっくりと過ぎていく。これ以上はなく、これ以下もない。ただ手をつないで、同じ布団で寝ているだけなのに、妙に甘く感じる。単に欲求不満なのかもしれないが。
「……ねぇ」
トンっと肩に手が乗る。汐海の方に顔を向けた。暗さに目が慣れてきて、微かに表情が見える。
「おやすみ」
まぶたが下りた。そして少しだけ顔が前を向くように動く。すー、すーっと規則正しく寝息が聞こえる。掴まれたままの手は温かくて柔らかい。目をつむって俺も寝ようとすると、触れ合っている感覚がより鮮明になり、眠れない。百メートル走で1位を獲ったような高揚感と胸の高まりで今日も眠れそうになかった。
結婚したら、というか付き合った女性は汐海が初めてだから当然他を知らないのだが、女性と一緒に寝ることがこんなにも大変なのは普通のことなのだろうか。
少なくとも俺は毎日が大変なのだ。結婚して、二人で暮らし始めた途端、汐海は甘えてくるようになった。それまではそんなそぶりはなかったのに。そして俺は、甘えられることをーー。
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