19人が本棚に入れています
本棚に追加
殻の中身は実
「それまで、どんな感じだった」
汐海が出て行った後、母親が戻ってきた。顔がほんのり赤くなっている。おそらく親戚のおじさんとかとお酒を飲んでいたのだろう。父親も俺もお酒はあまり飲まないから母親も普段は飲まないが、こうして周りに誰か飲む人がいれば引くほど飲むのだ。それも今の母親にはいい薬なのかもしれない。常備薬にはしてほしくないけど。
「どんな感じって?」
「その……父さんの様子」
「元気だったわよ、とっても」
「そっか」
「そうよ。そんなことじゃないんでしょ、聞きたいことは。母親に隠し事しても無駄よ。見栄張っちゃって、ほんとお父さんそっくりね」
俺を心を見透かすように目を細めていた母親は畳を優しく撫でていた。
「……俺のこと、怒ってた?」
父親は自分に厳しくて、自分にも厳しい。だからなんの計画も立ててないで結婚したことや地元を離れること、転職することに猛反対していて、半ば逃げるように出て行った。今更こんなことを聞くのは情けない話だったが、それでも気になっていた。
「全然、怒ってなかったわよ」
「母さん、俺は大丈夫だからさ、本当のこと、言ってよ」
「そうね、怒ってなかったと言えば嘘になるわね。でもね、父さんは本当に、そんなに怒ってなかったわよ。むしろホッとしたんじゃないかしら」
「ホッとしてた?」
最初のコメントを投稿しよう!