殻の中身は実

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「ええ、あんたは父さんと同じく頑固で生真面目だけど、ちゃんと意志をもって対立してきたことに、ね。あ、でも孫の顔が見れなかったのは悔しかったかもしれないわね」  笑っているがこれは、だから早くと催促されているのだ。母親は昔からこうやって遠回しに言ってくる。父親は直接的に言う人だったから正反対でよく結婚したなと高校生くらいから思っていた。 「それとね」  母親は深く息を吸った。そして口元を隠した。 「母さんとラブラブできることに、かしらね」  ごもって聞き取りづらかった。目元にはしわが色濃く線を描いている。手で隠しきれないほど、気持ち悪いにやけ面だった。 「ラブラブって」 「あら、ほんとよ。手を繋いで買い物したり、水族館にも行ったわ。あとは温泉に行ったり、ね」 「本当に? 父さんそんなことしないでしょ」 「ええ、あなたと同じくね。だから母さんがいるんじゃない。そこは、がっと掴んで引っ張っていけばついてくるわ」  母親の料理を思わせるような説明だった。毎回肉料理は同じ焼肉のタレだったりする。198円で思い出せるお手軽さが自慢だ。それが俺にとってのお袋の味で、俺にとっての母親だった。
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