クルミの殻に包まれたクルミの殻

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 海外ドラマを好む汐海はヒゲの人物が登場するものばかりを見ていた。汐海の母曰く、中学生のときはサッカー部のマネージャーをしていて、ある時人工芝がいかに手触りがよかったのかを語ったことがあるらしい。同じ原理でおそらくヒゲにジョリジョリしたいんだろう。  言いたくても言えない、もどかしい空気を髭剃りの機械音が裂く。こうして毎日のように汐海の望みは叶えられないで終る。別に俺はさせてもいいのだが、言えない。  そしていつものように汐海は洗面所から出ていく。少しだけ下げた肩にいつも胸を締め付けられる。家にいて、誰にも見られていないという確信が持てたとしても、俺は甘えることも甘えられることも恥ずかしいと思ってしまう。だから、汐海に甘えられることを拒んでいるんだ。  自分の弱みを見せる感じがして嫌なのだ。弱いのだが、それを行動に移すことで自分を再認識してしまい、今後も甘えそうで怖い。自分の甘さを見たくない。それは父親の影響なのかもしれないと最近は言い訳をしている。  警察官だった父はいつも正しさと強さを求めてくる。そうやって実に18年間、打ち続けられた杭はもう抜けることがなく、俺の中で腐っている。膿のようなものになって、手術よりも大掛かりな施しが必要なんだと思っている。  汐海がスニッカーズのターメリックかけならば、俺はクルミの殻に包まれたクルミの殻なのだ。
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