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殻は殻の外が分からない
俺と汐海は会社は違えど、職種は同じで事務員をしていた。最も、汐海のほうは上場企業で俺の方は中小企業。それでも最近は業績を伸ばしており、上場企業に転換するのも時間の問題だと上層部の人たちは口を揃えて言っていた。
「うずうずしています」
同期の志緒がデスクトップから顔をはみ出させるように身を倒してきた。汐海とは違い、ふわふわにデコレーションされた髪形は重力に負けてもなお質感は崩れていない。わたあめまではいかないが、とにかくふわふわしている。朝たまに見かける犬の毛並みみたいだ、言ったら怒られるけど。
「何が?」
「剛史の結婚生活を聞くことができなくて、志緒うずうずする」
まるで某野球漫画のヒロインをものまねしている某芸人のような口調だ。割と使い勝手いいんだよね。ちなみに今このフロアにいるのは俺と志緒だけだ。商談、役員会議、外出、有給休暇など多々の条件が偶然にも不幸にも合わさってこの状況が作り出されている。
「そうか」
「志緒悩んでたの、まだ新婚さんだしそんな突っ込んだ話を聞いたらいけないかなって。あ、ちなみに突っ込んだ話って下ネタじゃないから」
「誰もそんな勘違いしてないし」
「でもわたしは気づきました。今更だと。今更そんな気をつかうような間柄じゃないと」
志緒とは大学からの付き合いで、当然汐海も知った仲だ。汐海には志緒が一方的に絡んでいる。同じ『しお』がつくからとか適当な理由で強引に。そういうやつが志緒なのだ。今だってそうだし。
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