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殻は砕かれないし砕けない
葬式はまるで父親のようだった。厳格でひと言の私語さえ許さないような重々しい空気感だった。普通葬式とはそうなのだが、それが父親の葬式だということが俺の中で妙に当てはまり、より一層重々しく感じられた。
母親は俺の前では泣かなかった。父親の意志を継いでいるかのようにしっかりと口をつぐんで、しかし葬式の手はずはつつなくこなしている。だが時折放心状態のような危なげな表情をしていたり、化粧で意図的に隠しているように見える目元の赤さが妙に生々しかった。いつどこで何が起こるかわからないということが一層現実味を帯びる。
父は急性の病気だったらしく、病院に運び込まれたときにはすでに重症で、間もなくしてから息を引き取ったそうだ。俺はその電話を無視し続けていたのだ。母親の不安をさらに追い込むように、俺がーー。
「剛史くん」
汐海が俺の肩を強く押し、倒れ込みそうになる。
「聞いてる?」
「あぁ、ごめん」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
俺は無理に笑顔を作った。訝しむ汐海は「本当?」と念を押して聞いてくるが、それにも強く頷いて手を握った。
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