殻は砕かれないし砕けない

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「こっちの方が暖かいぞ」  汐海の手は冷たかった。一瞬、死を連想してしまいゾッとした。それを誤魔化すように手を無理矢理引っ張るような形で汐海を暖房の近くに置いた。斎場の一室は和室で泊る人の部屋兼控室になっていた。葬儀とは裏腹に親族などの参列者は緊張の糸が切れたかのような大騒ぎっぷりだった。 「ならこっちの方が早くあったまるよね」  ピタッと俺にくっついてくる。手もいつものように絡ませてきゅっきゅっとしてくる。冷たいからより細く感じられる指は今にも折れそうに思えた。俺からは汐海のうなじが視界の大部分を占めているので表情は見えない。逆も然りで俺は助かったと思った。こんな情けない表情は見せたくないのだ。 「結局、お義父さんに認めてもらえなかったね」 「そうだな」 「最後の最後まで反対されたよね、ダメだ認めないって」 「ごめん」 「なんで剛史くんが謝るのさ」 「……俺が頼りないから、なんだよ」 「そんなことないよ」 「……ごめん」 「剛史くん、今日謝ってばっかりだね」  汐海の手が離れていく。絹が滑り落ちるかのような手触り感が残る。 「お線香番、変わってくるね」  そう言って出ていった。残された部屋には暖房の唸り声が響いている。温かくすることに必死なのか、瀕死寸前なのか音は大きい。孤独を強調するかのようだった。 「何やってんだ」  吐き出さずにはいられない弱音が、自分はこんな弱くはないという見栄に打ち勝ち、さらに情けなさが増した感じがした。
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